Dyer, J. H., & Singh, H. (1998). The relational view: Cooperative strategy and sources of interorganizational competitive advantage. Academy of Management Review, 23(4), 660-679. ★★★ 【2012年7月11日】

論文中では、組織間(interorganizational)/企業間(interfirm)/パートナーシップ(partnership)等さまざまな言い方が使われているが、要するに、一対(dyad/pair)の企業もしくは企業のネットワークの競争優位の源泉とそれを維持(preserve)する隔離メカニズム(isolating mechanism)について概念的に論じた論文。

一対の企業もしくは企業のネットワークがもたらす利益は「関係レント」(relational rent)と呼ばれ、交換関係(exchange relationship)で共同で発生する通常以上の利益(supernormal profit)と定義される。それは、孤立した企業では発生しえないもので、特定の提携パートナーの共同の特異な貢献を通してのみ発生しうるとされる(p.662)。この関係レントの源泉として、次の4つが挙げられている。

1. 企業間の関係特殊的資産(relation-specific assets)
2. 制度化された企業間知識共有のためのルーチン(knowledge-sharing routines)
3. 企業間で相互補完的な資源/能力
4. 自己拘束メカニズム(self-enforcing mechanisms)のような効果的ガバナンス(effective governance)による低取引コスト

関係レントを維持する(=模倣の障壁になる)もの、つまりRBVでいうところの 隔離メカニズムとしては、
(1)因果関係のあいまい性(causal ambiguity)
(2)時間圧縮不経済(time compression diseconomies)
(3)組織間の資産の相互関連性(interconnectedness)
(4)提携相手の希少性(scarcity)
(5)資源の不可分性(indivisibility)
(6)制度的環境(institutional environment)
が挙げられている。このうち(1)(2)は、RBV (resource-based view)からもってきたものである。最後の(6)制度的環境とは、たとえば、米国、ロシアでは、日本国内にいた時ほど取引コストが安くならないというようなことを指している。

この論文の議論は、レントをめぐるRBVの基礎構造、すなわち、持続的な競争優位をもたらすのは、まずは、(a)レントを生み出す資源のユニークさ・異質性であり、そして、(b) その異質性を持続させるための何らかのメカニズムである(高橋・新宅, 2002)ということをなぞらえているのだと思われる。また関係レントの四つの源泉も、Peteraf (1993)のRBVの四つの隅石(基礎的条件)をなぞらえているように見える(もっとも、四つの隅石のうちの三つは(b)の隔離メカニズムであるが)。その意味では、一対の企業もしくは企業のネットワークをある種の(RBVにおける)資源として扱って概念構築した論文といえる。

なお、この論文では日本企業や日本での事例がふんだんに例示されていて、親近感を覚えるが、「3.企業間で相互補完的な資源/能力」の例として、日本で、Nescafe、Nesteaのブランド力があるネスレ(Nesle)が、缶飲料の自販機網をもつコカコーラと組んで、缶コーヒーを売り出したという例が挙げられているが(p.667)、ネスレ日本のホームページ によると1990年に大塚製薬と業務提携してネスカフェ缶コーヒーの販売を始めたことになっており(正確には大塚ベバレジと。同社は2010年に大塚食品に吸収された)、日本に住む一消費者として記憶にない。


《参考文献》

【解説】小林美月 (2013)「企業間で作り上げるアドバンテージ―経営学輪講 Dyer and Singh (1998)」『赤門マネジメント・レビュー』12(5), 397-414. ダウンロード

Peteraf, M. A. (1993). The cornerstones of competitive advantage: A resource-based view. Strategic Management Journal, 14(3), 179-191. ★★★

高橋伸夫・新宅純二郎 (2002)「Resource-based viewの形成」『赤門マネジメント・レビュー』1(9), pp.687-703. PDF


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