トンプソン『行為する組織』解説 by 高橋伸夫  解説論文  BizSciNet

Thompson, James D. (1967; 2003) Organizations in action: Social science bases of administrative theory. New York: McGraw-Hill; New Brunswick, N.J.: Transaction Publishers. ★★★解説
 (2003年版の訳: 大月博司・廣田俊郎訳『行為する組織』同文舘出版, 2012)

第T部


第1章 組織研究に対する戦略

 Gouldner (1959)は、組織に関する文献のほとんどに、その基盤となる二つの基本モデルが識別できるとし、その二つを合理的モデル(rational model)と自然システム・モデル(natural-system model)と呼んだ(p.4 邦訳pp.3-4)。

 たとえば、科学的管理法、経営管理論、官僚制の3学派は、経済的効率性が究極の基準だったので、効率性やパフォーマンス向上を追求する副産物として組織に関する文献が生まれ、合理的モデルが採用された。そのためには、システムの変数やそれらの関係が、われわれが十分理解ができるほど少数で、コントロールでき、確定的システム(determinate system)として取り扱える方が望ましい。つまり、システムは閉鎖的で、他からの影響を受けないものとして研究するクローズド・システム戦略(closed-system strategy)を採用して研究しているということもできる(pp.4-5 邦訳pp.4-6)。

 ところが、実際の組織は、自然システムであり、人間が一度に把握不能なほどの多数の変数を含み、さらにその一部は、人間がコントロールできない(=不確実性のある)変数なのである(pp.6-7 邦訳pp.7-8)。自然システム・モデルとしてトンプソンが挙げているものは不適切で、正しくはScott が2003年版の序文で挙げているように、von BertalanffyやAshbyを挙げるべきだが(Scott, 2003, p.xvii 邦訳p.x)、そこではオープン・システムのホメオスタシスすなわち自己安定化(self-stabilization)が重要な概念となる(pp.6-7 邦訳pp.7-8)。つまり、組織を理解し、記述しようとするのであれば、オープン・システム戦略(open-system strategy)をとる必要がある。

 クローズド・システム戦略とオープン・システム戦略。二つのアプローチをどちらかを選択すべきなのか? あるいは妥協して折衷すべきなのか? たとえば、トンプソンが新しい伝統と呼んでいるSimon, March, Cyertの研究の流れでは、意思決定プロセスの連鎖として組織を確定的に描いた上で、各意思決定プロセスに不確実性を導入するという折衷の仕方をしている。

 トンプソンの考えた統合の仕方は、それとは対照的である。組織をオープン・システムとしてとらえ、ホメオスタシスのようなものを想定しているのだが、組織内の人間の行為は「合理性の基準」(criteria of rationality)に従うと考えるのである(p.10 邦訳p.13)。すなわち、われわれの日常生活を支えているものはランダムな行動ではなく、計画的な行為であり(p.8 邦訳p.10)、組織の行為は、筋の通ったあるいは合理的な(reasonable or rational)ものであると期待される(p.1 邦訳p.1)と考えたのである。つまり「合理性の基準に従うオープン・システム」(an open system subject to criteria of rationality)として組織を分析するというのが、トンプソンのユニークなアプローチなのである。

 しかも、この合理性の基準に従うオープン・システムは、一様で均質な存在、あるいは、でたらめで非常に不安定な存在ではない。Parsons (1960)が挙げた技術的(technical)、管理的(managerial)、制度的(institutional)の3レベルで考えれば、制度的レベルでは、より広い社会的システムの一部として自然システムとして存在しているが、一番底の技術的レベルでは、不確実性が極力取り除かれた(=クローズド・システム)テクニカル・コア(technical core)で、技術的合理性が追求されるのである(pp.10-12 邦訳pp.13-16)。

《参考文献》

Gouldner, A. W. (1959). Organizational analysis. In R. K. Merton, L. Broom, & L. S. Cottrell (Eds.), Sociology today: Problems and prospects (pp.400-428). New York: Basic Books.

Parsons, T. (1960). Structure and process in modern societies. New York: Free Press. Chapter 2 (pp.59-96).


第2章 組織における合理性

 望む結果(desired outcome)に対する手段的な行為(instrumental action)は、原因/結果関係(cause/effect relationships)に関する信念(beliefs)で結びつく。つまり、望む結果を実現するために、どのような変数を操作(manipulation)すればいいのかの知識が必要である。そこにテクノロジー(technology)すなわち技術的合理性(technical rationality)が存在し、その技術的合理性は手段的(instrumental)・経済的(economic)の二つの基準によって評価される(p.14 邦訳p.19)。

 そうしたテクノロジーの中でも、「個人では操作(operate)することが不可能で非実用的なテクノロジーを操作するために、複雑組織(complex organization)は作られた」(p.15 邦訳p.20)とトンプソンは考えた。すなわち、目的志向的組織(purposive organization)であるならば、その芯(core)の部分は、一つあるいはそれ以上のテクノロジーからなっているはずだと考えたのである(p.19 邦訳p.26)。

 その様子を俯瞰してみると、この芯の部分のコア・テクノロジー(core technologies)は、クローズド・システムの論理に基づいているが、それは常により大きな組織の合理性(organizational rationality)に埋め込まれている。つまり組織の合理性が、ある時間と場所にテクノロジーをピンで留め、さらにインプット活動(input activities)とアウトプット活動(output activities)を通じて、より大きな環境へと結びつけているのである(pp.23-24 邦訳pp.32-33)。したがって、クローズド・システムの論理に基づいたコア・テクノロジーの技術的合理性は、組織の合理性の必要な構成要素ではあるが十分ではない。テクノロジー活動だけではなく、インプット活動とアウトプット活動も適切に噛み合って連動(gear)しなければならないのである(p.19 邦訳p.26)。それゆえ、組織の合理性は、クローズド・システムの論理だけではなく、オープン・システムの論理も必要とするのである(p.20 邦訳p.27)。

 ところで、トンプソンは、どのようなものをテクノロジーだと考えていたのだろうか? おそらく、第1章で取り上げた科学的管理法、経営管理論、官僚制の3学派からの着想なのだろうが、(1)経営管理論で考えられていたように専門化し、(2)官僚制で考えられていたように標準化された行為が、(3)科学的管理法で考えられていたように、行為Aがうまく完了したら、その後のみに行為Bが遂行され、行為Bがうまく完了したら、その後のみに行為Cが遂行され……といった連続的な依存性(serial interdependence)があるものだったらしい。これをテクノロジーの手段的基準の例だと考えるとすっきりするのだが、そのようには明記されていない。

 その代わり、それぞれの特徴を強調した類型として(1)集中型テクノロジー(intensive technology)、(2)仲介型テクノロジー(mediating technology)、(3)長連結型テクノロジー(long-linked technology)を提示して、それぞれ例示しているが(pp.15-18 邦訳pp.20-24)、実際には、一つの例がどの類型にも当てはまってしまい、類型として破綻している。たとえば、集中型の例として挙げられている総合病院であるが(p.17 邦訳p.23)、確かに専門家が寄ってたかってという意味では集中的だが(1)、一人一人の専門家は当然、標準化されて広範囲にわたってテクノロジーを使うからこそ専門家なのであり(2)、しかも、受付も検査も診察もせずに、いきなり注射を打つような病院はなく、行為には連続的な依存性がある(3)。実際、第4章では、ベル電話システム(Bell Telephone System)を(1)(2)(3)の組合せ(combination)だとも例示している(p.44 邦訳pp.62-63)。その意味では、トンプソンが挙げたのはテクノロジーの三つの類型などではなく、テクノロジーの三つの要素あるいは手段的基準というべきだろう。いずれにせよ、技術的合理性を評価する手段的基準と経済的基準の二つの基準(criteria)のうち、従来は経済的基準を論じるものが多かったのに対して、トンプソンはテクノロジーの手段的基準を論じようとしたのである(pp.14-15 邦訳pp.19-20)。

 このように、望む結果へと導く原因/結果関係としてのテクノロジー(技術的合理性)は、抽象化したアブストラクト(an abstraction)なので(p.18 邦訳p.24)、そのアブストラクト(それがテクノロジー)を行為に翻訳しようとすると、コア・テクノロジーでは解決しない問題に直ちに直面することになる(p.19 邦訳p.25)。そこで、組織は、自己制御(self-control)状態を可能にする巧妙な装置(maneuvering devices)を用意してきた。その装置をトンプソンは五つの命題としてまとめている。組織は、コア・テクノロジーを環境の影響から封鎖(seal off)しようとする(命題2.1)。そのために、テクニカル・コアをインプットとアウトプットのコンポーネントで囲んで、環境からの影響を緩衝(buffer)しようとする(命題2.2)。さらに、環境に働きかけて、インプットとアウトプットの取引を平滑(smooth)・平準(level)しようとする(命題2.3)。緩衝も平滑もできない環境の変化に対しては予測して適応(anticipate and adapt)しようとする(命題2.5)。それでもだめなら、配給制にする(rationing) (命題2.5)。

 最後の「配給制にする」(rationing)とは、緊急時などで、優先順位の高い活動・機能だけは確保して、他は省いてしまうということで(p.23 邦訳pp.31-32)、パソコンのフリーズ時のセーフ・モードのようなイメージである。

 なお、緩衝は量的な変動に対するものだが、March & Simon (1958)が考えたような質的な変動に対する標準化も、本来はあってしかるべきだろう。また、予防的なメンテナンスを緩衝に分類しているが(p.20 邦訳p.27)、予防的なメンテナンスとは、放っておくと、突然の故障で機械が長時間止まってしまい、被害が大きいので、たとえば週1回の短時間の定期点検を行うことで機械の停止時間を平滑化、平準化するものなので、緩衝に分類するのは間違いだろう。


第3章 組織化された行為のドメイン

 この章は、次の第4章で展開される議論で用いられる諸概念を用意しておくための章である。

 この章の前半では二つの概念が取り上げられる。一つは「ドメイン(domain)」(Levine & White, 1961)、もう一つは「タスク環境(task environment)」(Dill, 1958)である。まずドメインは、領域、領地の意味で、組織が「自分のものだと主張する」領域を指している(p.26 邦訳p.36)。たとえば、コア・テクノロジーがあったとき、その全部ではなく、一部をその会社がドメインとしていることが常であり(p.26 邦訳p.37)、その組織は自己充足的(self-sufficient)ではない。したがって、組織は外部との交換をすることが必要になるわけだが、そのときには、その組織が何をして何をしないのかについての「ドメイン・コンセンサス(domain consensus)」が事前に明確になっている必要がある(p.29 邦訳p.40)。このドメイン・コンセンサスは個人の目標やモチベーションとは切り離された組織の「目標」のようなものである(p.29 邦訳p.40)。自分以外のものすべてを指している環境のうち、目標設定・目標達成に関連するあるいは潜在的に関連する部分はタスク環境と呼ばれるので(p.28 邦訳p.38)、組織のタスク環境は、組織のドメインによって決まってくる(p.28 邦訳p.39)。言い換えれば、ドメイン・コンセンサスを確立するのに潜在的に関連した環境が、タスク環境なのである(p.29 邦訳p.40)。

 この章の後半では、パワーが、依存関係と結び付けて取り上げられる。もし、ある組織が競争相手の行為を考慮することなく行為する能力をもつのであれば、その組織はその競争相手に対してパワーをもつという(p.31 邦訳p.43)。依存とパワーは表裏の関係にある(Emerson, 1962)(p.30 邦訳p.42)。そのために、組織は代替的な方法を維持することによって、タスク環境要素のパワーを最小化しようとしたり(命題3.1)、名声(prestige)を得ようとしたりするのである(命題3.2)。こうした競争戦略(competitive strategies)ではなく、逆に協働戦略(cooperative strategies)として、契約締結(contracting)をしたり(命題3.3a)、役員にして取り込もう(coopting)としたり(命題3.3b)、連合体(combination)や合弁事業(joint venture)といった連合形成(coalescing)をしようとしたりもする(命題3.3c)。

《参考文献》

Levine, S. & White, P. E. (1961). Exchange as a conceptual framework for the study of interorganizational relationships. Administrative Science Quarterly, 5, 583-601.

Dill, W. R. (1958). Environment as an influence on managerial autonomy. Administrative Science Quarterly, 2, 409-443.

Emerson, R. M. (1962). Power-dependence relations. American Sociological Review, 27, 31-40.


第4章 組織デザイン

【注意】邦訳のこの章のタイトルは「組織ドメインのデザイン」になっているが、原題は "Organizational design" であり、内容的にも誤解を招き、間違いである。邦訳では、この章の中で登場する "organizational design" あるいは "design" を「組織ドメインのデザイン」と訳し変えているが、内容を理解していない誤訳である。また、次の第5章も邦訳のタイトルは「テクノロジーによる相互依存関係と組織構造」になっているが、原題は "Technology and structure" であり、意訳しすぎである。読んだことのある人であればすぐに気がつくように、そもそも、この第4章と次の第5章は、有名なチャンドラーの『経営戦略と組織構造』(Strategy and structure)(Chandler, 1962)を意識して、その理論編的なものを意図して書かれている。この第4章で、垂直的統合や多角化といった「組織デザイン」(「組織ドメイン」ではない)の話をして、次の第5章で「組織構造」の話をするという展開になっている。

 この第4章の論点は、組織が成長する場合、その方向性はランダムなものではなく、組織ドメインの3要素や余剰資源によって方向づけられているという主張である。その結果として、さまざまな組織デザインが存在し、それ故第5章では、さまざまな組織構造が存在するという話につながっていく(p.50 邦訳p.71)。

 最初の組織ドメインの3要素(three elements)とは、ドメインは

  1. 含まれるテクノロジー(technology included)
  2. サービスを受ける母集団(population served)
  3. 提供されるサービス(services rendered)
の3要素によって定められるというもので、組織デザインの変更は、これら3要素のミックスの修正をともなうと考えている(p.40 邦訳p.56)。このドメインの3要素はドメインの3次元といってもいいもので、この3次元について、境界線(boundaries)をどのように引いていくかで、ドメインが決まるのである。【注】ただし、トンプソンは、この3要素が組織ドメインの概念を検討した際に出てきたものだと書いているが、該当箇所(p.26 邦訳p.36)では、Levine and White ( 1962)を引用していて、(2)(3)は同じだが、(1)はもともと「対象とする病気」(diseases covered)あるいはトンプソンが言い換えて「製品の範囲」(range of products)であり、全く異なっていたことには注意がいる。

 この組織ドメインの3次元は、第2章で登場したテクノロジーの手段的基準: (1)連続的な相互依存性、(2)標準化、(3)専門化に対応している。組織が成長する理由の一つとしてトンプソンが考えたものは、そうしないと重大なコンティンジェンシー要因(crucial contingencies)になってしまう活動を取り囲んで組み込む(incorporate)ように組織の境界線を設定するために成長するのだというものだった(命題4.1)。それ故、

  1. 連続的な相互依存性が高い場合には、垂直的統合によって、含まれるテクノロジーを拡大するようにドメインを拡大する(命題4.1a)。
  2. 標準化が進んでいる場合には、サービスを受ける母集団を増大させることでドメインを拡大する(命題4.1b)。
  3. 専門化が進んでいる場合には、提供されるサービスの幅を広げることでドメインを拡大する(命題4.1c?)。
という命題につながっていく。つまり、テクノロジーの特性によって、組織成長の明確な方向性が生まれ、それは組織ドメインの3次元に沿ったものだというのである。【注】ただしトンプソンの命題は、テクノロジーの手段的基準ではなく、テクノロジーの類型: (1)長連結型テクノロジー、(2)仲介型テクノロジー、(3)集中型テクノロジー、を用いている。その副作用なのかもしれないが、命題4.1cについては、「働きかける対象を組み込む」(incorporating the object worked on)と意味不明な表現になっているが、その後に挙げられている例示(pp.43-44 邦訳pp.60-62)は「提供されるサービスの幅を広げる」内容になっている。

 次に、余剰資源についての議論は、トンプソンは触れていないが、Penrose (1959)の主張とほぼ同じである。資源は連続的に分割できる(continuously divisible)わけでなく、一定量の単位でしか入手できないものもある。そのため、組織の構成要素のどれかには、常に未使用部分が残ってしまうので、最も縮小しにくい未使用部分をほぼ完全に使用するまで、組織は成長しようとする(命題4.2)。そのことをトンプソンは構成要素のバランスをとる(balancing of components)と呼んでいるが、それで、タスク環境が支援できる以上の超過能力(excess capacity)を持った場合には、組織はドメインを拡大しようとする(命題4.3)。

 ただし、こうした命題は、政府による制約やパワーといった条件によって、妥当性が制限される。実際、他組織に対してパワーを持っている場合には、その活動を公式に組み込む必要はないのである(p.48 邦訳pp.68-69)。


第5章 テクノロジーと組織構造

【注意】邦訳のこの章のタイトルは「テクノロジーによる相互依存関係と組織構造」になっているが、原題は "Technology and structure" であり、意訳しすぎである。この第5章は、有名なチャンドラーのStrategy and structure (Chandler, 1962)を意識して、その理論編的なものを意図して書かれている。

 この章では、技術的要件(technological requirement)が組織構造(structure)に与える影響に、次の第6章では環境が組織構造に与える影響について焦点を当てている。第2章でも述べたように技術的合理性は手段的基準と経済的基準(効率性; efficiency)で評価される。大規模自然災害時の臨時の災害復興組織のように、手段的には高く評価されるが、効率性の悪い組織の例もあり、この章では、手段的には合理的な組織の効率を高める組織構造が考察される。そのためのトンプソンの基本的な考え方は、「組織構造は相互依存的な各要素間の調整された行為を容易にしなければならない」(p.54 邦訳p.76)というもので、横の部門化(departmetalization)と縦の階層(hierarchy)で、調整コストが最小になるように職(position)をグループ化することで、組織構造は作られると考えている(命題5.1)。

 まず組織内部の依存性(interdependence)を三つに分けている。

  1. 直接的な関係もコンタクトもないが、ある要素の失敗で組織全体が危機に陥ると、他の要素にも脅威になるという意味での共同負担的(pooled)依存性
  2. 一方向的な直接の関係がある逐次(sequential)依存性
  3. 双方向的な直接の関係がある相互(reciprocal)依存性

 トンプソンは、A⊃B⊃Cとガットマン・スケール的な包含関係があるとしているが、素直に考えれば、BとCはどちらか択一で、交わりがないのではないかと思われる。

 こうした内部の依存性に対処して、調整コストを最小にするには、まず相互依存性のある要素を接触する(tangent)ように職をグループ化・局所化(localize)し(命題5.1a)、次に逐次依存性のある要素をグループ化・局所化して(命題5.1b)、そうしてできた各グループが、計画と標準を守る限りはという条件付きで自律的な(conditionally autonomous)グループになるようにする。aしかない場合には、職をグループ内で同質的になるようにグループ化する(命題5.1c)。これが部門化である。たとえば、合宿に自家用車で相乗りして行く場合、地理的に近所の人でまずグループ化し、少し離れた人は拾っていく順番を決める。あらかじめ決めた集合場所に正確な時計で定刻までに車が到着できるのであれば、その限りにおいては、各車が、それまでどんな経路でどうやって人を集めながら来るのかは調整する必要がない。

 しかし、もし依存性をグループ内に封じ込めることができなかった場合は、階層構造が作られる。つまり相互依存性のあるグループは、二次のグループ(second-order group)/クラスターにまとめようとしたり(命題5.2)、タスク・フォース(task-force)やプロジェクト組織(project groupings)に調整を頼る(命題5.4d)。逐次依存性があるグループは接触するようにしてクラスターにしたり(命題5.3)、委員会(committee)に調整を頼る(命題5.4c)。類似の職に関しては、グループの境界を越えてルールをかぶせ(blanket)(命題5.4a)、標準化する場合にはルール策定機関(rule-maling agency)とのリエゾン(liaison; 連絡役)を置く(命題5.4b)。さきほどの例でいえば、人数的にアンバランスな2台(たとえば3人乗と5人乗)は、誰かがリーダーシップをとって、途中のパーキングで一度待ち合わせして、人数調整(4人乗・4人乗)をしてから最終目的地に向かうことにし、また最終目的地に着いてからのガソリン代や高速代の割り勘の仕方も2台の間で不公平にならないように連絡役を決める。


第6章 組織の合理性と組織構造

【注意】邦訳のこの章のタイトルは「環境に対する組織の合理性と組織構造」になっているが、原題は "Organizational rationality and structure" であり、意訳しすぎである。この第6章は、第5章「テクノロジーと組織構造」に続いて、有名なチャンドラーのStrategy and structure (Chandler, 1962)を意識して、その理論編的なものを意図して書かれている。

 第2章で議論していくつかの命題で示したように、組織は、コア・テクノロジーを環境の影響から封鎖(seal off)しようとする(命題2.1)。そのために、テクニカル・コアをインプットとアウトプットのコンポーネントで囲んで、環境からの影響を緩衝(buffer)しようとする(命題2.2)。さらに、環境に働きかけて、インプットとアウトプットの取引を平滑(smooth)・平準(level)しようとする(命題2.3)。緩衝も平滑もできない環境の変化に対しては予測して適応(anticipate and adapt)しようとする(命題2.5)。つまり、組織は、緩衝・平準するために境界単位(boundary-spanning units)を確立し、テクニカル・コアを環境の影響から隔離(isolate)しようとする(p.67 邦訳pp.95-96)。

 まず、組織は、そのテクノロジーも直面しているタスク環境も組織ごとに異なるので、複雑組織を構造化するための唯一最善の方法(one best way)は存在しない(p.67 邦訳p.96; p.78 邦訳p.111)。したがって、公・民・産業・所有形態などの伝統的な組織の分類法も、組織構造の分類には適切ではない(pp.67-68 邦訳pp.96-97)。組織には、地理的空間(geographic space)とタスク環境の社会的構成(social composition)の環境的な制約条件がある。このうち地理的空間は、地点間の距離(distance)によって記述されるが、組織の場合はその距離を輸送コスト(cost of transportation)とコミュニケーション・コスト(cost of communication)によって測定する。それに対して、タスク環境の社会的構成は同質性の程度(degree of homogeneity)と安定性の程度(degree of stability)の二つの次元(Dill, 1958)によって記述、測定される(pp.68-69 邦訳pp.97-98)。この2次元を使って分類した時、相対的に同質的で安定的なタスク環境では、境界要素(boundary-spanning component)の構造は相対的に単純で、組織は職能別組織(functional devisions)になる(p.72 邦訳pp.103-104)。しかし、タスク環境が異質(heterogeneous)に、移ろいやすく(shifting)なると、そうはいかない(ただし、命題6.1; 6.2; 6.2a; 6.2b; 6.2c; pp.72-73 邦訳pp.104-105の記述は意味がよく分からない)。

 組織構造が複雑になるのは、組織の規模だけが理由ではない(p.74 邦訳p.106)。もしスケジューリングを除いて、テクニカル・コアを境界活動(boundary-spnning activities)から隔離できるならば、集権的な職能別組織のままでいい(命題6.3)。実際(1967年当時はまだ言われていなかったが)、範囲の経済の場合はこれに相当するだろう。それに対して、相互依存関係がある場合には、いわゆる「分権的事業部」(decentralized division)のような自己充足的なクラスター(self-sufficient cluster)となるように分割され、各クラスターが独自ドメインをもつ(命題6.4; pp.76-77 邦訳pp.109-110)。こうして、トンプソンは、チャンドラー(1962)の事業部制の話を組織の合理性の観点から説明しようとしている。ただし、チャンドラーのGMのケースは、持株会社から事業部制に逆に集権化した話であり、説明できていない。


第7章 組織のアセスメント

 組織のアセスメント(the assessment of organization)と題したこの章の前半で議論されていることは、現在、実務の世界で常識的に行われていることと重ねて説明すると理解しやすいだろう。今日、企業が自社の経営革新を行う場合には、アセスメントを行うことが定着している。

  1.  望ましさの基準が具体的に固まっている(crystallized)場合、原因/結果関係(cause/effect relationship)に対する確信(belief)が完全(complete)であれば、最も望ましい状態を100%としたときに、どの程度達成されているかという効率性テスト(efficiency test)を行うことができる(p.86 邦訳pp.122-123)。実務の世界では、一般的に、結果系の数字で示される。
  2.  原因/結果関係に対する確信が不完全な場合には、アセッサーが手段テスト(instrumental test)を行う(p.86 邦訳p.123)。実務の世界では、望ましい結果が何かわかっていれば、アセッサーは、その原因となるはずの重要成功要因を析出することになる。
  3.  しかし、そもそも望ましさの基準(standards of desirability)があいまい(ambiguous)な場合には、基準の代わりに、準拠集団(reference group)を決めて、そこと比較することで、社会的テスト(social test)を行う(pp.86-87 邦訳pp.123-124)。これを実務の世界ではベンチマーキングと呼んでいる。

 ただ、トンプソンは、(c)社会的テストよりも(b)手段テスト、(b)手段テストよりも(a)効率性テストが選好される(命題7.1)としているが、実務の世界では、選好されるというより、順番として、まずは(c)ベンチマーキング、それができたら(b)重要成功要因を析出し、最終的に(a)結果系の数字を出してアセスメントを行うことが一般的に行われている。その際に、結果系の数字は経時的改善(historical improvement)をしていることを示そうとするし(命題7.2a)、ベンチマーキングの場合には、準拠集団と比べて、どこが良いか悪いかがポイントになる(命題7.2b)。そして評価能力がない場合には、評価を外部評価に頼るようになるが(命題7.5、7.5a、7.5b)、あくまでもアセスメントはセルフ・アセスメントが基本である。

 この章の後半では、組織の部門評価について扱われている。

  1. テクノロジーが手段的に完全で、かつタスク環境が安定的であるか十分に緩衝化されている場合には、過去の実績から組織の全体最適な状態が分かっており、それを達成するために、各部門がどのような状態であるべきかも計算できる。すると、そこからどの程度乖離しているかで、部門を評価することができる(命題7.6)。
  2. それに対して、タスク環境の安定性や緩衝化が十分ではないが、原因/結果関係の知識がある程度完全な場合には、各部門は部分最適化をはかり、コストと貢献を相互依存的な各部門に恣意的にでも割り当てて、各部門を評価する(命題7.7)。
  3. 原因/結果関係の知識が不完全であるときは、組織の合理性(organizational rationality)の観点から部門が評価される(命題7.8)。そもそも原因/結果関係の知識が不完全であるときは、相互依存関係はルールやスケジュール、相互調節を通じてコントロールされるので、その遵守、逸脱、信頼の観点から評価される(命題7.8a、7.8b、7.8c)。

第U部

 個々のメンバーの行動が予測できない(unpredictable)ものであれば、組織は困ってしまう。メンバーの行動の確実性や予測可能性(certainty or predictability)と組織メンバーによる自由裁量の行使(exercise of discretion)は、表裏の関係にある。(1)だれが自由裁量の行使に参加しているか? (2)参加者間の関係は? (3)何についての自由裁量か? (4)自由裁量はどのように現れるのか?


第8章 変数としての人間(the variable human)

 トンプソンは、人間の行為は、

  1. 願望(aspiration)、基準(standard)、そして因果関係についての知識または確信(knowledge or beliefs about causation)をもっている個人(individual)
  2. 機会(opportunities)と制約条件(constraints)を呈する状況(situation)
の相互作用から現れてくると定式化している(pp.101-102 邦訳p.143)。

 個人間の一様性(uniformities)は、(a)文化による同質化、(b)職業やキャリアといった社会システムの分類・チャネル化機能(sorting and channeling function)、によってもたらされている。さらに、誘因/貢献の契約(inducements/contributions contract)によって、人間の異質性の表出は抑えられることになる(pp.105-106 邦訳p.149)。この契約は、個人の可能な行動のレパートリー(repertoire)全体の限られた一部を組織が要求し、さらにその中で、無差別圏(zone of indifference; Barnard, 1938)あるいは受容圏(zone of acceptance; Simon, 1947)が設定されることで、組織にとって自由裁量の領域が生まれる。なぜなら、ある個人の無差別圏の中の行動は、組織がそのどれを指定しても、その個人にとっては無差別だからである(pp.105-106 邦訳pp.149-150)。

 こうした誘因/貢献の契約は、短期的には貢献を誘因に交換する手段であるが、長期的には、個人のキャリア形成の機会と制約条件をもたらしている。すなわち、個人のキャリアを構成する単位(unit)としての職務(job)は、キャリア形成のための舞台(arena)つまり「活躍の場」(action sphere)なのである(p.106 邦訳p.150)。したがって、「活躍の場」たる職務にとっては、(1)学習機会(opportunity to learn)、(2)人目を引く機会(opportunity for visibility)、(3)重要な他者から課されたアセスメントのタイプの3次元が重要になる(pp.107-108 邦訳pp.151-152)。

 また、複雑組織と連動した社会では、個人は「活躍の場」を守ったり、拡大したりするように動機づけられているので(p.106 邦訳p.150)、誘因/貢献の契約の内容は、交渉によって政治的プロセスを通して決まってくるのである(命題8.1)。その際、3次元から見ると、職務がもたらす「活躍の場」は、その職務が埋め込まれているテクノロジーによって違ってくるし、交渉戦略も違ってくる(p.108 邦訳p.152)。

 ルーチン化されたテクノロジーの場合は団体交渉によるが(命題8.2)、団体交渉のルールや線引きが決定的に重要となる(命題8.2a)。組織の境界線では、タスク環境の要素のパワーとその要素への組織の依存性を統御する個人の能力によって決まってくるが(命題8.3)、組織がタスク環境の要素に対するパワーをもっていれば、それだけ依存性を減らすことができる(命題8.3a)。

 集中型(intensive)テクノロジーでは、早く頭打ちになる職業(early-ceiling occupation)についている個人は、団体交渉で自らの職業を格上げしようとするし(命題8.4)、遅く頭打ちになる職業(late-ceiling occupation)である専門職(profession)では、交渉は同じ職業の人の間でいかに人目を引くかにかかっている(命題8.4)。管理的(managerial)テクノロジーでは、交渉プロセスは、組織的合理性の問題を解決する能力があるという個人の評判(reputation)にかかっている(命題8.6)。


第9章 自由裁量とその行使

 自由裁量(discretion)の行使に対する組織のニーズと、行使する能力(ability)は、組織の中で異なる分布をしているのであれば、問題は部分的にはマッチングの問題である(p.117 邦訳p.165)。しかし、ここで問題とされているのは、(1)自由裁量的な職務(discretionary job)に従事する個人が自由裁量の行使を行わないときと、(2)ルーティン化された職務(routinized job)に従事する個人が自由裁量を行使するときである(p.123 邦訳p.173)。

  1. 自由裁量の行使を回避しようとする理由は、資源が不適切(命題9.1)、組織構造が不適切(命題9.1a)、誤ったときの結果が深刻(命題9.2)、評価基準が不適切(命題9.2a、9.2b) [回避できないような構造を作ることもある(命題9.3)]。
  2. 監視(policing method)によって逸脱的自由裁量(deviant discretion)から組織を守ろうとするが(命題9.4)、仕事の負担が能力を超える場合(命題9.5)、仕事の負担や資源供給が変動する場合(命題9.6)、代替的な方法が存在する場合(命題9.7)、自由裁量を行使する誘惑にかられる。

 第1章で説明した合理的モデル/自然システム・モデルで対比させれば、合理的モデルの「権限と責任の一致」(authority equal to responsibility)は、自然システム・モデルのバージョンでは「高自由裁量の職務についている個人は、組織内の他者への依存性以上のパワーを維持しようとする」(命題9.8)になり、パワーが足りない時には、ゲーム理論でいうところの結託(coalition)をしてもよいことになる(命題9.8a)。ただし、結託の相手は、組織内のメンバーとは限らず、タスク環境の重要な要素とでもいいし(命題9.8c)、組織メンバーでも危うい価値の者は、結託で下位のパートナーとなる(命題9.8b)。いずれにせよ、組織の依存性が変化すると、それが脅威になる結託もあれば、それで新たに可能になる結託もある(命題9.9)。

 この結託概念を使えば、組織の目標を定義することもできる。すなわち、組織にとって、目標とは、支配的結託(dominant coalition)の人々が意図する未来のドメインである(pp.127-128 邦訳pp.180-181)。したがって、支配的結託で世代がオーバーラップしているならば、そのことが、個人の寿命を超えて組織が永続する基礎となる(p.128 邦訳p.181)。他方、組織内のテクノロジーの発達(正確には変化?)と組織外のタスク環境の変化が、相互依存性を変化させるので、テクノロジーとタスク環境が動的(dynamic)であればあるほど、政治的プロセスは早くなり、組織目標も頻繁に変化するようになる(命題9.11)。ただし、組織目標の変化に、深刻な遅れが生ずる場合もある(命題9.12)。

 いずれにせよ、複雑な組織ほどパワーの基盤が多くなり、政治的なポジションも増える(命題9.10)。分権化は、パワーを有するポジションを増やすが、各ポジションへの組織の依存性を制限することで、パワー構造を希薄にする(命題9.10a)。


第10章 複雑組織のコントロール

 全能な(omnipotent)個人の仮定は、合理的モデルとは整合的だが、条件がかなり揃っていないと無効である。したがって、一人の人間が率いるピラミッド組織は、条件がかなり揃っていないと成立が難しい。そこで自然システム・モデルと整合的な支配的結託の登場となるわけだが、この章の前半では、組織の中で支配的結託は他の部分と比較して、どの程度の大きさであるべきなのかを考察している。そこで、トンプソンは、サイモンの意思決定前提(decision premise)のアイデアに則って、一人の全能の個人ではなく、支配的結託が、どのように意思決定前提を操作するのかという観点から、この問題を考えている(p.133 邦訳pp.187-188)。

 トンプソンは意思決定前提の二つの要素(注: トンプソンは次元dimentionと呼んでいるが、果たして次元と呼べるものなのかは疑問である)、(1)原因/結果関係の確信(beliefs about cause/effect relations)、(2)可能な結果に関する選好(preferences regarding possible outcomes) (注: どちらも翻訳は誤訳であろう)に分けて考えている(p.134 邦訳p.189)。(注: 翻訳のp.189の図3の四つのセルは、原著では空白だったのに、内容が記入されている。しかし、妥協的戦略と判断的戦略は位置が逆である。)

 このうち、(1)の原因/結果関係の確信については、さらに(a)コア・テクノロジーの完全性と(b)タスク環境の同質性の2軸を考えている。もし、コア・テクノロジーが完全(perfect)で、タスク環境が同質的であるならば、原因/結果関係の確信は「確実(certain)」であり、標準化され顧客に対して、標準化された結果を生み出すために、標準化されたテクノロジー活動を繰り返すので、もしかしたら一人の人間が率いる組織でもいいのかもしれない(p.136 邦訳p.192)。しかし、コア・テクノロジーが不完全であればあるほど、支配的結託は大きくなるし(命題10.1a)、タスク環境が異質であればあるほど、より多くのタスク環境専門家(task-environment specialist)が支配的結託に入ってくることになる(命題10.1b)。支配的結託はより大きなものになり(命題10.1)、不確実な領域の代表者を加えて拡大する(命題10.2)。

 選好に関しては、明言されていないが、結託内のコンフリクトの可能性(命題10.3)として考えられているようだ。外部が内部での選好の妥協を求めたり(命題10.4)、専門職の種類が増えると(命題10.5)、コンフリクトが生じやすくなる。

 この章の後半では、結託マネジメントが考察されている。トンプソンがイメージしているのは、大学の教授団のような、いわゆるコミュニティのようなものである。パワーが分散していれば、インナー・サークル(inner circle)が結託の仕事をするようになり(命題10.6)、それなしでは動けなく(immobilized)なってしまう(命題10.7)。結託は、承認はするが決定はしないし(命題10.8)、結託をマネジメントする個人はパワーほもつが(命題10.9)、独裁者や司令官というわけではなく、あくまでも支配的結託の同意や承認を得た場合にのみ、リーダーシップを発揮する(p.142 邦訳p.202)。


第11章 管理プロセス

 管理原則は本質的に合理的モデルの仮定から導き出されたものである(p.144 邦訳p.205)。しかし、

複雑な目的志向的組織は合理性の規範に従う自然システム(natural system subject to rationality norms)であるという本書のアプローチは、管理の重要な現象がまさにこの二面性(duality)の諸矛盾(inconsistencies)のとおりに生起するということを示唆することを可能にする。もし複雑組織が単に自然なシステムであるならば、組織の問題を扱う自発的な(spontaneous)プロセスを期待できる。もし複雑組織が単に合理的モデルの機械(machine)であるならば、組織を創始する設計者が必要になるが、それ以降の組織のオペレーションは自動的(automatic)になるだろう。(p.144 邦訳p.205)

組織はそのどちらの極端でもない。

 管理の中心的職能(central function)はいくつかの必要な行為の流れの結びに(at the nexus; 翻訳は誤訳)、組織を維持することである(p.148 邦訳p.211)。それぞれが動的な諸要素―動く標的―を撃つことになるので、単に静態的(static)な構成要素の組み合わせとしての形態(configuration)ではないもっと広い意味での形態、すなわち共整合(co-alignment)となる。基本的管理職能(basic administrative function)は共整合となって現れる(p.147 邦訳p.209; p.148 邦訳p.212; p.157 邦訳p.224)。

 そこで、確実性と柔軟性の二重の探求というパラドックスに対処するために、管理階層(administrative hierarchy)という二重目的メカニズム(double-purpose mechanism)がある(pp.148-150 邦訳pp.212-213)。第1章でもとりあげたように、管理階層はPersonsにしたがい3層(levelまたはlayer)からなっているとする。管理階層の上端の制度的レベル(institutional level)は、第10章で議論したようにインナーサークルによって構成されるものと定義し、組織の目標(goals)はこれで特定化されると期待する(p.149 邦訳p.213)。ここでは長期的にスラックによって柔軟性を得ようとする(p.150 邦訳p.214)。それに対して、管理階層の下端の技術的レベルでは、短期的な確実性が求められる。その間に挟まれた管理的レベル(managerial level)は、翻訳家(translator)となり、(a)技術的な目標達成を可能にするように、制度的レベルから十分なコミットメントを確保し、(b)管理上の自由裁量ともし必要なら資源の再投入を可能とするように、テクニカル・コアから十分な能力とスラックを確保しようとする(p.150 邦訳p.214)。

 Cyert & March (1963)は、問題発生で始まり、問題解決で終わる問題志向探索(problematic search)という概念を導入したが、これは少なくとも二つあるスタイルのうちの一つにすぎない。もう一つは、機会志向探査(opportunistic surveillance)と呼ぶモニタリング行動である。実行可能な結び(viable nexus)を見つけることが管理の核心(heart)であるが、動的環境においては問題志向探索では見つかりそうにない(p.151 邦訳pp.215-216)。にもかかわらず、機会志向探査が相対的に不足してしまうのはなぜだろうか? そこで管理プロセス上の限界(limitations on the administrative process; 翻訳は誤訳)が四つほど指摘される(pp.152-154 邦訳pp.216-219)。

  1. 役職保持(officeholding)
  2. 確実性志向バイアス(a bias toward certainty)
  3. パワーが分散しているのにインナー・サークルが不十分
  4. 知識やノウハウの欠如

 組織が設立され、その能力が明確に示されると、組織を解体するための社会的コストは大きなものになるので、予防ケアの方が圧倒的に低コストになる(pp.154-155 邦訳pp.220-221)。


第12章 結論

 この章は、ほとんどまとめの章なのだが、不確実性の源泉として、コンティンジェンシー性について述べられているので、そこだけ整理しておこう。トンプソンは複雑組織が直面する不確実性の源泉を三つ挙げている。そのうち二つは組織にとって外部のもので、(1)一般化不確実性(generalized uncertainty)、(2)コンティンジェンシー性(contingency)である。三つ目は組織内部のもので、(3)構成要素の相互依存性である(p.159 邦訳p.227)。

 まず、組織の行為(原因)と結果について、原因/結果(cause/effect)がはっきりしていれば、不確実性は存在しない。たとえば、組織が行為a1をとれば結果はz1になり、行為a2をとれば結果z2になり……と原因と結果に一対一対応がついていれば不確実性はない。このとき、たとえば行為a1をとれば、どうして結果z1になるのか? というような因果関係は分からなくても、ブラックボックスのままでいいのである。たとえば、自動販売機に硬貨を入れて、ボタンを押せば、ペットボトルのお茶が出てくるということが分かっているのであれば、お茶を買うのに、自動販売機の中身、機構がどのようになっているのかを知る必要はない。このように、自動販売機に硬貨を入れてペットボトルのお茶を買うというのは、われわれ日本人にとっては当たり前の行為/結果であるが、しかし、自動販売機を見たこともないような途上国の出身者が、いきなり自動販売機の前に連れてこられても、何をすればペットボトルのお茶が出てくるのかは分からないであろう。これをトンプソンは(1)一般化不確実性と呼び、「文化全般における原因/結果理解(cause/effect understanding)の欠如」(p.159 邦訳p.227)と定義している。

 次に、原因/結果関係はある程度分かっているのだが、組織が行為a1をとると結果はz11z12か……のどれかなのかは分かっているのだが、(a)結果は環境要素の行為にも依存していて、組織が行為a1をとっていても、環境要素の行為がθ1ならば結果はz11、θ2ならば結果はz12……となる場合、しかも、(b)環境要素が行為θ1、θ2、……のどれをとるのか組織が知らない場合(確率を知っている場合も含むと思われる)、(2)コンティンジェンシー性があると呼んでいる。((b)についてトンプソンは明記していないが、(a)のみで、たとえば環境要素の行為がθ1だと分かっているのであれば不確実性は存在しないので、(b)は暗黙の前提だったと思われる。)

 以上が、組織外部の不確実性の源泉であるが、実は、そもそも組織が行為a1ならa1を本当に実行できるのかどうか、という点でも不確実性が存在している。これが三番目の不確実性の源泉で、組織内部の(3)構成要素の相互依存性である。トンプソンはこれに対する解決策(solution)を簡単に挙げている。すなわち、(i)組織的行為を指図するパターンを規定する。(ii)パターンに沿って指図する組織的自由を与える。(iii)パターンに合わせて行為を実際に指図する(pp.159-160 邦訳p.159)。(翻訳では、(i)(ii)(iii)を三つの源泉(1)(2)(3)に対応させているが、それでは意味不明である。)



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