ワイクらしく様々な小ネタ(事例)がちりばめられているので、目移りして論旨が分かりにくいが、最初のページ(p.112)に “requisite variety” と引用符付きで出てくる概念が鍵になる。この論文の中ではきちんと引用もされていないが、これはアシュビー(William Ross Ashby)の法則(Ashby’s Law)とも呼ばれる「必要多様性の法則」(law of requisite variety)のことで、簡単に言うと「多様性だけが多様性を中和できる(only variety can destroy variety)」(Ashby, 1956, p.207)という法則。一時期(この論文が書かれた頃も)サイバネティクス系の人たちの間で流行っていた。何か証拠があるわけでもなく、みなさん「当然だ」とおっしゃるだけで、安易に「法則」だと信じるのは要注意なのだが、この論文では、この必要多様性の法則に則り、
高信頼性組織に関する重要文献とされるので★★★にしたが、1980年代の匂いがプンプンする読み物としてはともかく、学術論文としてはどうだろう。
Ashby, W. R. (1956). Requisite variety. An introduction to cybernetics (chap.11: pp.202-218). New York, NY: John Wiley.