Weick, K. E., & Quinn, R. E. (1999). Organizational change and development. Annual Review of Psychology, 50(1), 361-386. ★★★ 【2017年7月12日】

 この論文は、組織変化(organizational change)を扱った既存研究をレビューした論文であり、

  1. エピソード的変化(episodic change)・・・ 時折起こる(episodic)、不連続的な(discontinuous)、間欠性の(intermittent)変化
  2. 連続的変化(continuous change)・・・連続的な(continuous)、進化する(evolving)、漸進的な(incremental)変化
という対照的な組織変化は、観察者の見方(the perspective of the observer)を反映していると主張している。

 このことは、論文の冒頭の2段落(p.362)にはっきりと書いてあり、実に斬新なワイクらしい主張である。しかし、いかにもワイク流の雑然としたレビュー論文で、ぱっと見には、既存研究を二つに分類しているかのように見える。そのため、よく読まずに、組織変化の2分類を提唱した論文だと勘違いして引用している研究者もいるようだが、それは間違いである。この論文は、一つの変化に対して、2通りの説明・記述の仕方があると主張しているのだ。せっかくここまでユニークな主張をしていたのだから、Allison (1971)のキューバのミサイル危機の分析のように、一つの組織変化をエピソード的変化としても、連続的変化としても説明・記述できるという例を一例でもいいから挙げておけば誤解されなかったのにと、残念で仕方がない。

 実際、この論文が指摘する通りである。経営者のような上の階層の人間のインタビューをすると、組織の慣性(inertia)、変化の引き金(triggers)、置換(replacement)という三つの重要な過程でエピソードが記述される(p.369)ことが多い。しかし、現場で観察できることは、時々刻々と組織が連続的に変化していることであり、その気になれば、「○年△月◇日の状態は○○○」といった感じで、組織の状態を時系列で連続的に記録、記述することができる。その記述には、慣性、引き金、置換のような要素はあまり登場しない(p.377)。はっきり言って、多くの経営学者、経営者は、エピソードで変化を語る安易さ、安直さに鈍感過ぎる。人々は革命の成功を、過去との断絶、未来のビジョンのせいにする傾向があり、漸進的で微細な変化を見過ごしがちだ(p.379)という指摘や、だからこそ、研究者は「変化(change)」よりもむしろ「変化している過程(changing)」に焦点を当てるべきだ(p.382)という主張は、良心的な経営学者や経営者であれば、耳が痛いはずだ。

 そうした意味では、「連続的(continuous)変化」と対比させて素直に「非連続的(discontinuous)変化」とせずに、あえて「エピソード的(episodic)変化」と呼んだのは実に言い得て妙である。まさに「エピソードで語られる変化」に過ぎないからである。ちなみに、英語の “episodic” には「エピソード風の、挿話の、挿話から成る」と「偶発的な、時折起こる、気まぐれな」の二つの意味があり、その英語の語感をうまく生かしたネーミングだといえる。


《参考文献》

Allison, G. T. (1971). Essence of decision: Explaining the Cuban missile crisis. Boston, MA: Little, Brown, and Company. 邦訳, グレアム・T・アリソン(1977)『決定の本質: キューバ・ミサイル危機の分析』(宮里政玄 訳). 中央公論社.


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