この論文は、バーノンの「プロダクト・サイクル仮説」(「プロダクト・ライフ・サイクル」ではないので要注意)の論文として有名である。ただし、論文中では “our hypothesis” と連呼されているのだが、仮説が何を指しているのかはどこにも書いていない。なので、仮説が何なのかよく分からない。脚注6 (p.198)、p.205、p.207では “hypotheses” と仮説は複数形になっているので、たくさんの仮説が論文全体にちりばめられているのかもしれない(どこにあるのかは分からないが)。最初のページ(p.190)の脚注*には、米国の海外直接投資に関するハーバード・ビジネス・スクールの研究の仮説構築段階(hypothesis-building stage)の副産物とされているので、ひょっとすると(かなり無茶苦茶な話だが)、論文全体が仮説なのかもしれない。
それにとどまらず、論文のタイトルには “product cycle” と入っているのだが、論文の本文中には “product cycle” が一度も出てこないので、プロダクト・サイクルが何を指しているのかがさっぱり分からない。新製品(new products)→成熟製品(maturing product)→標準化製品(standardized product) というのがプロダクト・サイクルなのかと想像したくなるが、Figure 1 (p.199)では、これを製品開発段階(stages of product development)とラベルしており、プロダクト・サイクルとは書いていない。ということで、結局、この論文を読んでも「プロダクト・サイクル仮説」はどこにも書いていないし、それが何を指しているのかも不明のままである。かくのごとく、この「論文」は、組織化が不十分で記述が散漫、論文というよりはエッセイに近い。海外直接投資の研究では、引用するのがお決まりのようなので★★☆にしてあるが、お世辞にも「良く書けた論文」とはいえないので、お手本にしてはいけない。結局、引用されたもん勝ちといったところか。
論文の構造は単純で、製品開発段階を3段階に分けて、それぞれについて1節ずつ節を立てて記述している。一応、各節の内容を簡単に要約しておこう。
なお、Vernonは1979年に、ずばり“The product cycle hypothesis 〜”というタイトルの論文(Vernon, 1979)を発表している。その論文の中では、さすがに“product cycle hypothesis”は何度も登場するが、プロダクト・サイクルを含め、やはり説明はない。そして、このプロダクト・サイクル仮説が強い予測力(strong predictive power)を持っていたのは、第2次世界大戦後20〜30年(つまり1970年前後)までの米国と米国企業に関してだけだった(Vernon, 1979, p.265)と明言している。Vernon (1966)の「予測」は、米国と米国企業に限っても数年しかもたなかったということになる。言い換えると、論理的に考えれば、過去20年程度の経験的事実から帰納的に導かれたプロダクト・サイクル仮説は、新しく得られたデータには当てはまらず、仮説としては棄却された、とVernon自らが認めたことになる。
Vernon, R. (1979). The product cycle hypothesis in a new international environment. Oxford Bulletin of Economics & Statistics, 41(4), 255-267.