官僚制(bureaucracy)の下で革新(innovation)や創造性(creativity)を生むための方策らしきものの示唆を与えることを目的とした論文。現代の官僚制組織における革新の障害となっているものを挙げ、それを変えるものとして、内発的動機づけをはじめとして、当時登場し始めていた様々な新概念が取り上げられる。そして、その方向に向けて、官僚制組織は実際に進化しているとしている(p.1)。そう、実はこの論文は、単純に「官僚制 対 革新」と対峙させて、官僚制それ自体が本質的に革新を阻害している(のだからやめてしまえ)と主張している論文ではないのである。たとえば、官僚制組織は、上司・部下関係で成り立つ階層構造の頂点にいる人が正統性(legitimacy)の唯一の源泉(pp.3-4)という意味で、独裁的(monocratic)とされるが、独裁的な官僚制組織でも高度に革新的な組織がある(ウェーバーが「カリスマの制度化」と呼んだ現象)とも主張している(p.10)。実際、この論文では挙げられていないが、まだ海のものとも山のものともつかないような新しいアイディアに対して、カリスマ経営者が「よし、商品化しよう」と一言言ってくれれば、官僚制組織は一体となって効率的に動いて、一気に革新が進むことは明らかであり、そのような事例はいくらでも見つけられる。その場合は、むしろ官僚制の方が、新しいアイディアの実行にとっては都合がいい。
個人的には、実践への含意として、今行われているような上司が年に一度業績査定をすることはやめた方がいい(p.18)と書いていることが印象的である。その理由は、階層構造の中での上司は、プロフェッショナルの評価には適さないからだそうで、(階層構造に則った)単線型の評価・給与システムではなく、複線型の評価・給与システムを勧めている。ちなみに、論文中 “professional” という用語が何度も登場するが、単純に官僚制と対峙させているわけではなく、官僚制組織における革新の障害を変えるものの一つとして出てくる。そのため、この論文をプロフェッショナル論の論文だと位置づける研究者もいるが、むしろ21世紀に入ってからは、革新(innovation)について「新しいアイディア、過程、製品、サービスの生成(generation)、受容(acceptance)、実行(implementation)」「変化または適応する能力」(p.2)と定義した部分が引用されることが急増しており、(官僚制下の)革新について論じた論文という扱いの方が一般的になりつつある。