ちょっとしたブームが去り、用語 “empowerment” は、いまや人事労務の実務家の間では、「権限移譲」と訳されることも多いのではないだろうか。1980年代にempowermentを用語として使った論文が出始めるが、当時、合意された定義はなかった。そんな中で、Conger and Kanungo (1988)が動機づけの観点から論じ始め、その流れの中で、この論文が書かれている。この論文では、empowermentは、内発的課業動機づけの増進(increased intrinsic task motivation)と定義されている。そうやって定義された労働者のempowermentは、
モデルの鍵である解釈スタイル(p.674)として(i)(ii)(iii)の三つを挙げる根拠は不明である。また、論文は、明らかに内発的動機づけの理論をベースにしているはずだが、A〜Dをあえて別の次元として区別することは、Deciの内発的動機づけの理論からすると違和感がある。Aの効果は、課業環境に意図的に変化を起こすこととされ、Bの有能さはWhite (1959)の意味だとされ、Dの選択はより抽象的・哲学的な自己決定(self-determination)の代わりに使うとされている(pp.672-673)。しかし、少なくともこの三つは、Deci (1975)では同じものと主張されているからである。
Conger, J. A., & Kanungo, R. N. (1988). Empoerment process: Integrating theory and practice. Academy of Management Review, 13(3), 471-482.
Deci, E. L. (1975). Intrinsic motivation. New York, NY: Plenum Press. (安藤延男・石田梅男訳『内発的動機づけ: 実験社会心理学的アプローチ』誠信書房, 1980)
White, R. W. (1959). Motivation reconsidered: The concept of competence. Psychological Review, 66(5), 297-333.