Thomas, K. W., & Velthouse, B. A. (1990). Cognitive elements of empowerment: An "interpretive" model of intrinsic task motivation. Academy of Management Review, 15(4), 666-681. ★☆☆ 【2015年10月21日】

 ちょっとしたブームが去り、用語 “empowerment” は、いまや人事労務の実務家の間では、「権限移譲」と訳されることも多いのではないだろうか。1980年代にempowermentを用語として使った論文が出始めるが、当時、合意された定義はなかった。そんな中で、Conger and Kanungo (1988)が動機づけの観点から論じ始め、その流れの中で、この論文が書かれている。この論文では、empowermentは、内発的課業動機づけの増進(increased intrinsic task motivation)と定義されている。そうやって定義された労働者のempowermentは、

  1. 効果(impact)
  2. 有能さ(competence)
  3. 有意味性(meaningfulness)
  4. 選択(choice)
の認知が基になっていると考えられていて、これが課業評価(task assessments)の評価の4次元になる(p.671)。その課業評価の際には、(i)評価(evaluation)、(ii) (原因の)帰属(attribution)、(iii)未来の想像(envisioning)の三つの解釈過程・解釈スタイルが意味を付与するとされていて(p.669)、論文タイトルにある「解釈モデル」(interpretive model)は、そこから来ている。課業評価が積み重ねられ、学習されることで一般化した確信(generalized beliefs)である全体的評価(global assessments)となり、新奇状況を評価する際に役立つとされる(p.673)。

 モデルの鍵である解釈スタイル(p.674)として(i)(ii)(iii)の三つを挙げる根拠は不明である。また、論文は、明らかに内発的動機づけの理論をベースにしているはずだが、A〜Dをあえて別の次元として区別することは、Deciの内発的動機づけの理論からすると違和感がある。Aの効果は、課業環境に意図的に変化を起こすこととされ、Bの有能さはWhite (1959)の意味だとされ、Dの選択はより抽象的・哲学的な自己決定(self-determination)の代わりに使うとされている(pp.672-673)。しかし、少なくともこの三つは、Deci (1975)では同じものと主張されているからである。


《参考文献》

Conger, J. A., & Kanungo, R. N. (1988). Empoerment process: Integrating theory and practice. Academy of Management Review, 13(3), 471-482.

Deci, E. L. (1975). Intrinsic motivation. New York, NY: Plenum Press. (安藤延男・石田梅男訳『内発的動機づけ: 実験社会心理学的アプローチ』誠信書房, 1980)

White, R. W. (1959). Motivation reconsidered: The concept of competence. Psychological Review, 66(5), 297-333.


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