組織活性化について定義し、実際に測定して I I図(I-I chart)でポジショニングを行って検証した論文。ここでは、その解説をする。
高橋(Takahashi, 1992) は、課業の選択過程が逐次決定問題として定式化されるような組織モデルについての数理的組織デザイン論の帰結を活性化のフレームワークとの関係に落とし込んでいる。組織形態は組織構造と管理システムとの組で表現され、課業の逐次決定モデルの一部を構成することになる(Takahashi, 1987; 1988)。
まず、@トップ・リーダー、Aマネジャー、B単位組織の3階層からなる組織を考える。ただし、単位組織はそれを構成する相互依存的なメンバーが対面コミュニケーションによって共同で単位組織としての一つの活動をとることができるほど十分に小さいものとする。単位組織は共に組織全体の資源に依存し、かつ各単位組織の活動の実行のタイミングも相互に関連しているなど、単位組織間には相互依存性があるので、単位組織の活動は計画を組んで調整する必要がある。そこで、次の仮定を置く(Takahashi, 1986)。
仮定1. 各マネジャーはある組織的活動をトップ・リーダーに推薦する。
つまり、各マネジャーは、トップ・リーダーに対して組織全体の活動計画について自分の部門的・専門的な観点から助言・勧告をする役目をもっているという仮定である。このとき、 各マネジャーによって推薦された組織的活動を課業と呼ぶことにする。
既に述べたように、経営管理論では命令系統一元化の原則が唱えられていた。ピラミッド組織はまさにその原則に則った組織であり、その中では、単位組織は唯一人のマネジャーが定めた課業を遂行することになる。つまり、トップ・リーダーは唯一つの課業を選択しなければならないことになる。そのとき、選ばれなかったマネジャーは「ナル・マネジャー」(null manager)と呼ばれる(Takahashi, 1986)。これはラインとスタッフの関係を表している。経営管理論では、ラインとスタッフの区別は単なる関係の問題であると考えられている。ライン(line)と呼ばれるものの本質は上司が部下を直接監督するという権限関係であるのに対して、スタッフ(staff)は単に助言・勧告を行う関係である(Koontz & O'Donnell, 1955, p.137)。ピラミッド組織では、一人のマネジャーにラインとして全権限が与えられ、他のラインからはずされたナル・マネジャーはスタッフとしての関係しかないということになる。こうした組織はライン・スタッフ組織(line and staff organization)と呼ばれている。ライン権限を行使できる部下をもたないマネジャー(=ナル・マネジャー)は、日本企業では「スタッフ課長」などと俗称されているが、経営管理論的には正しい呼称といえる。
それに対し、マトリックス組織は命令系統一元化の教えを捨て、多元的命令系統を採用した組織なので、トップ・リーダーは各単位組織に対して、マネジャー達によって推薦された二つ以上の課業をある割合で(=ある分布にしたがって)、実行するように命令することになる。すなわち、トップ・リーダーはマネジャー間のパワー分布を決定する。このことはデイビス=ローレンスが「マトリックス組織では二元的圧力が存在するために、その圧力をともに考慮した、バランスのとれた意思決定が必要となる。このような意思決定を実現していくうえで、トップ・リーダーの果たすべき決定的に重要な役割はマトリックスに存在する二つの系統間のパワーの合理的バランスを定め、維持することである。」(Davis & Lawrence, 1977, p.77 邦訳p.121)と述べているように、マトリックス組織におけるトップ・リーダーの決定過程を特徴づけるものである。
同じ課業であっても、組織にとって制御不可能な諸要因すなわち環境(environment)のために異なる結果を生むことがある。トップ・リーダーはこうした環境の状態を考慮に入れつつ、課業の調整と計画を行う必要がある。このように、環境の状態については不確実性が存在しているので、各マネジャーが単位組織を通して環境の状態についての観測をすることを考えよう。各マネジャーが接しているのは環境の一部にすぎないので、全マネジャーの観測結果を集めて組にして組織的観測結果として利用することにする。このとき、マネジャーの観測結果を収集する次の二つの代替的な手続きが考えられる。
言い換えれば、組織には観測センターの配置に関して二つの代替的配置があるということである。手続き1ではトップ・リーダーが観測センターを兼ねることになる。それに対して手続き2では、ある一人のマネジャーが観測センターとなる。つまり、課業の決定については、トップ・リーダーが権限をもっているが、情報収集というより技術的でオペレーショナルなサンプリングの決定権に関しては、マネジャーに委譲するのである。
バーンズ=ストーカーは、組織がその各メンバーに対して彼自身と他のメンバーの行為を制御する権利と制御される義務、そして情報を受ける権利と伝える義務とを与え、定める機構として管理システムを定義した。同様にしてここでは、二つの観測手続きを実現させるものとして理想型の管理システムを定義しよう。いま、トップ・リーダーが観測センターを兼ねるような管理システムをシステム1(System 1)、ある一人のマネジャーが観測センターを勤めるような管理システムをシステム2(System 2)と定義する(Takahashi, 1983)。ここでシステム1、システム2とは、バーンズ=ストーカーの機械的システムと有機的システムの一部の特徴、すなわち、表1のうち、伝達・調整面の特徴(c)、(f)、(g)、(h)と同じ特徴をもった管理システムとして定義されている。
表1. 機械的システムと有機的システムの特徴
機械的システム | 有機的システム | |
---|---|---|
(a) | 企業全体の課業は職能別課業に専門化 | 専門的知識・経験が企業の共通課業に貢献 |
(b) | 個々の課業は抽象的 | 個々の課業は具体的 |
(c) | 各階層では、直接の上司が調整 | 他の人との相互作用を通して調整・継続的再定義 |
(d) | 権利、義務、方法の正確な定義 | 誰か他人の責任として片付けない |
(e) | 権利、義務、方法を職能的責任に置き換える | 技術的な定義を越えての企業とかかわる |
(f) | 統制、権限、伝達の階層構造 | 統制、権限、伝達のネットワーク構造 |
(g) | 情報は階層トップに独占的に集中する | 情報はその場限りのセンターに集められる |
(h) | メンバー間の相互作用の垂直的傾向 | 組織内伝達は垂直というより水平方向 |
(i) | 上司の指示・決定で作業、行動 | 伝達の内容は指示・決定よりも情報・助言 |
(j) | 企業への忠誠、上司への服従を強要 | 企業全体の課業や進歩への積極的関与を重んじる |
(k) | 内部の知識、経験、技能を重視 | 企業外で有効な関係・専門知識を重視 |
ただし、システム2のように、サンプリングの決定権に関してマネジャーに委譲できる(より正確にいえば、Takahashi (1987, p.24)の分離定理(separation theorem)が成立する)のは、次の仮定を置いたときだけである。
仮定2. トップ・リーダーとマネジャーは同じ損失関数をもっている。またトップ・リーダーとマネジャーは環境の状態について同じ事前分布をもっている。
この仮定2は「マネジメント・チームの存在」と呼ぶこともできる。ここで、マネジメント・チームとは同じ損失関数、同じ確率分布を共有するトップ・リーダーとマネジャーのグループのことである。「チーム」という名称はそれが マルシャック=ラドナー(Marschak & Radner, 1972)のチーム理論の「チーム」の定義を満たしていることからつけられた。
以上のように、ピラミッド組織、マトリックス組織の2タイプの組織構造は課業の割り当てシステムとして定義され(Takahashi, 1986)、システム1、システム2の2タイプの管理システムは環境の観測過程における伝達システムとして定義される(Takahashi, 1983)。ここで、組織構造と管理システムによる表2のような組で表現される四つの組織デザインについて考えてみよう。数理的組織デザイン論では、この四つの組織デザインのうち、どの組織デザインが効率的かということを分析してみたわけである。
表2. 組織デザインと仮定
(出所) Takahashi (1992) Table 1。
もし組織が仮定1を満たさないのであれば、マトリックス組織を選択できる機会が失われ、組織はピラミッド組織をとるしかなくなる。つまり、表4でいうと、ピラミッド組織の横の行であるP1、P2だけが、とりうる組織デザインとなる。もし、組織が仮定2を満たさないのであれば、サンプリング決定の権限をマネジャーの誰かに委譲することができなくなるので、組織はシステム2を選択できる機会を失う。すなわち、システム1をとるしかなくなる。したがって、表2でいうと、システム1の縦の列であるP1、M1だけが、とりうる組織デザインとなる。
もし仮定1と仮定2のどちらも満たされないのであれば、組織は組織構造としてはピラミッド組織、管理システムとしてはシステム1をとるしかなくなる。つまり、可能な四つの組み合せのうち、わずかに一つP1だけが、とりうる組織デザインとなる。このような組織は官僚制組織と呼ばれ、古典的な経営組織論の世界では唯一の組織モデルであった。言い換えると、仮定1と仮定2を満たすことは、官僚制組織と比べて、より適切な組織デザインを選択できる可能性が増えることを意味する。
コンティンジェンシー理論が主張するように、組織化に唯一最善の方法は存在しないが、最善の組織化の方法を選ぶことを可能にするような組織の類は存在する。それが、これら2仮定を満たした組織で、仮定2と仮定1に対応する形で、先程の組織の活性化された状態の定義である「組織のメンバーが @組織と共有している目的・価値を A能動的に実現していこうとする状態」が考え出された。したがって、組織が活性化していれば、最善の組織デザインを採ることができる。
そこでここでは、高橋(Takahashi, 1992)による組織活性化のフレームワークをもとにして、活性化の意味について考えてみよう。このフレームワークでは、活性化された状態(activated state)を「組織のメンバーが @組織と共有している目的・価値を A能動的に実現していこうとする状態」と定義する。そして、@の組織と目的・価値を共有している程度を表すものとして一体化度を、Aに関連して、逆に受動的に思考している程度を表すものとして無関心度を考える。この一体化度と無関心度は、それぞれ次のような意味を持っている。
図1. I I図によるメンバーの類型化
(出所) Takahashi (1992) Figure 2を加工したもの。
「組織デザイン」でも詳述されるが、組織活性化の程度を一体化度と無関心度で表現しようという基本的なアイデアは、もともとは数理的な組織デザイン論(Takahashi, 1987)から得られたものである。そこでは、組織モデルを構築した上で、いくつかの組織設計上有用と思われる命題が導出される。しかし、こうした命題はすべての現実の組織に妥当するものではない。数理系の理論の常として、ある仮定もしくは前提条件を満たした場合にのみ妥当する。その前提条件を満たしている程度が一体化度と無関心度によって表現されるわけで、高一体化度・低無関心度のタイプ3のメンバーが多い時、つまり活性化された状態の時、はじめて組織設計論で想定しているような環境適応の組織設計が可能になるのである。
ここで注目したいのは、I I図の4タイプの類型がこれまでにも暗黙のうちに仮定されて学説が立てられてきたということである。マーチ=サイモン(March & Simon, 1993, p.25 邦訳p.8) はそれまでの組織についての命題には、人間の諸属性のうちのどれを考慮に入れるべきか、ということについての一連の仮定が明示的にもしくは暗黙のうちに前提として含まれていると主張した。そして、組織内行動についての諸命題をその仮定によって次の三つに大分類した。
おおざっぱに言えば、1は科学的管理法、2は人間関係論、3は近代組織論によく見られるタイプの命題である。それぞれここでのタイプ1, 2, 3にほぼ対応していることがわかる。既に述べたように、実質的に組織メンバーとはいえないタイプ4は、現実にはほとんど見られず(Takahashi, 1992)、彼らも考えていない。実際、個々の人間レベルでは、3組の仮定のいずれかによく当てはまるケースが多いのではないだろうか。つまり、タイプの異なるメンバーが存在し、そのメンバーに適用可能な理論も異なってくると考えた方が自然だろう。
以上のような考察は、次のような推論を可能にしてくれる。すなわち、タイプ4は非貢献者型であり、実際には、このタイプのメンバーの多い組織は組織的行動がとれずに、存続が難しくなる。それ以前の問題として、そのような傾向をもった者をメンバーとして企業が受け入れるとは考えにくい。事実、マーチ=サイモン(March & Simon, 1993, p.25 邦訳p.8) もタイプ4に相当する分類は想定しなかった。したがって、仮に、無関心度指数と一体化度指数が正しく測定されているとすると、次のような仮説を立てることができる。
仮説1. 無関心度指数も一体化度指数も共に低いようなタイプ4の者は、実際の企業の組織には少ない。
さらに、タイプ1のメンバーを中心とした組織をタイプ1の組織、同様にタイプ2、タイプ3のメンバーを中心とした組織を、それぞれタイプ2の組織、タイプ3の組織と呼ぶことにしよう。仮説1から、タイプ4の組織は考えないことにする。そこで、この3タイプの組織が持っているはずの組織特性について考えてみよう。
前節の議論から、タイプ1、タイプ2の2タイプは無関心度指数が高いタイプなので、仮定2を満たさず、マトリックス組織をとることができない。したがって、とりうる組織構造はピラミッド組織のみということになる。 さらに、同じピラミッド組織であっても、タイプ1の組織は無関心度指数が高く、メンバーがトップの命令、指示に従順で素直というだけでなく、一体化度指数も高いため、セクショナリズムもなく、全社一丸となって、目標、仕事に当たるような組織である。
それに対して、タイプ2の組織は無関心度指数が高く、メンバーはトップの言ったことは真面目に、かつ忠実に実行するが、一体化度指数が低く、組織の目的・価値と個人の目的・価値との間に一線を画するために、全社一丸となることはなく、メンバーはどこか覚めた目で、ビジネスライクに組織の仕事を行い、官僚的、役人的になり、組織もお役所的な感じになっていると考えられる。あるいは、そこまでいかなくても、セクショナリズムの傾向が強いかもしれない。前節で、仮定1、2のどちらも満たさない組織は官僚制組織となると述べたが、タイプ2のメンバーが中心のタイプ2の組織は、この仮定1、2のどちらも満たさない組織であり、まさしく官僚的、役人的組織となる。
タイプ3の組織は前節の仮定1、2を満たすような組織、つまりコンティンジェンシー組織である。ということは、タイプ3の組織においてのみマトリックス組織およびシステム2の両方を選択することができるので、マトリックス組織でかつシステム2をとっている組織はタイプ3の組織と類別してかまわないはずだ。特に、マトリックス組織をとりうる、仮定2を満たすような無関心度指数が低い2タイプのうち、タイプ4は存在しないと考えられるので(仮説1)、マトリックス組織をとっている組織があれば、タイプ3の組織に類別できる。
以上のことをまとめると、実際の組織をその組織特性から予想して「タイプ1・2・3」に分類するときのポイントは次のようになる。
仮説2. 「タイプ1・2・3」に予想類別された組織の間には、II図上で示されたような位置関係がある。
仮説1とともにこの仮説2が検証されると、無関心度指数と一体化度指数は正しく測定されているということが確認できる。既に述べたように、組織の活性化された状態の定義である「組織のメンバーが @組織と共有している目的・価値を A能動的に実現していこうとする状態」に従えば、無関心度指数が低く、一体化度指数の高いタイプ3のメンバーが中心のタイプ3の組織は、活性化された状態にある組織、すなわち、活性化組織である。
そこで、高橋(Takahashi, 1992)は、無関心度と一体化度を測定し、メンバーおよび組織をプロットすることで、活性化度の比較を行う手法を開発した。より具体的には、各経営施策等の採用・実施状況について文章を完成させながら答える次のような一般的形式の質問を作成し、無関心度指数と一体化度指数の算出に用いた。
「経営施策名 は (1. 行われている 2. 行われていない) が、そのことによって、私は (3. 働きがいを感じている 4. 働きがいとは関係ない 5. 働きがいを感じなくなった)。また、会社の活性化には (6. 寄与している 7. 関係がない 8. 悪影響を及ぼしている)。」
下線部の経営施策名としては14種の経営施策等が用いられたが、そのうち二つの指数の算出には、組織メンバーの課業・処遇等に本質的に重大な影響を及ぼすはずの@異部門間でのジョブ・ローテーション、A引っ越しを必要とするような距離での転勤、B専門職制度、C年功序列・能力主義人事、D労働組合の活動、の五つの経営施策等の採用・実施状況についての質問の回答が用いられた。
無関心度指数は、五つの質問のうち「4. 働きがいとは関係ない」と答えた質問の数で定義した。一体化度指数は、五つの質問のうち、次のどれかのケースに該当する質問の数で定義した。
測定の有効性を検証するための調査は、後にJPC調査と呼ばれるようになった一連の調査の最初の年に実施された。対象となったのは日本生産性本部の経営アカデミー『人間能力と組織開発』コースの参加者の所属企業7社である。調査は2段階に分けて行われた。第一段階として、1986年6月14・15の両日に、合宿形式で各社1人ずつ7人と筆者の計8人からなるグループで相互のヒアリングを行った。この段階では、各社の会社概要、トップの経営方針、組織的特徴、社風などを中心に1社平均100分程度をかけて、報告、質疑応答等の議論を行い、各社の特性を浮き彫りにする作業が行われた。
調査の第二段階は、各社での標本調査であった。当初、企業間の違いと同様に、年齢別階層間での違いも大きくなると予想されたこともあり、標本の選び方は企業間での企業特性の比較が可能になるように、まず各社において、ヒアリングの対象者を含んだ人員規模が200人から400人程度のホワイトカラーの組織単位を選び、さらにその中から、年齢別階層でみた分布がなるべく均等になるように、各社50人から60人程度を抽出した。その上で、1986年9月3日(水)に各社一斉に、質問調査票を標本に選ばれた人、7社合計で385人に配布し、記入してもらった上で、匿名性を守るために、封筒に入れたものを9月8日(月)までに回収するという形で標本調査が行われた。回収された調査票はあらかじめ決められた指示にしたがって、各社の担当者によって点検された上で、筆者がクリーニングを行った。その結果、374人から質問調査票が回収できた。回収率は97.1%であった。このうち、無関心度指数と一体化度指数を算出するのに必要な項目にすべて回答している331人 (配布人数385人の86.0%)が、ここでの分析対象になった。
実際に331人を一体化度指数と無関心度指数とでII図上にプロットすると、図1のような散布図が得られる。この散布図をみると、無関心度指数と一体化度指数がともに小さいような人が少なかったことがわかる。つまりタイプ4の非構成員型の組織メンバーは少なかったことが確認された。
図1. II図によるメンバーの散布図(N=331)
(注) Kendall'sτb =-0.257, p <0.001, Pearson's r =-0.351, p <0.001.
(出所) Takahashi (1992) Figure 3 (誤植修正済)。
II図で想定されたような位置関係にあることを検証するためには、各社の組織特性をあらかじめ予想して、「タイプ1・2・3」に分類しておく必要がある。調査の第一段階での調査結果をふまえて、ここでは次のように7社を類別した。
A社は、1970年に日本の自動車メーカー2社、米国の自動車メーカー1社の共同出資により、自動車部品メーカーとして設立されたまだ若い会社である。1981年からは米国の自動車メーカーが株式を他の2社に売却し、現在は日本の自動車メーカー2社が株式の65%と35%をそれぞれもち、取締役は両社のOBがなり、設立からの日が浅いので、部長も両社の出向で占められている。親会社が今までのところ好調であるために、従業員は親方日の丸的にやってきている。その分、従業員は素直で、トップの言うことに従順で、目標が与えられると、全社一丸となりやすい。組織の面でもセクショナリズムはみられず、一枚岩となっている。実際、1984年から1985年にかけての経営効率化プログラムでは、全社挙げての推進が功を奏し、間接部門では一人当たり20%程度の時間の効率化を達成しているが、さらに良い例が、調査時点で進行中だった間接部門を中心とした人件費削減をめざした経営の効率化である。これは超過勤務手当の大幅カットなどによるコスト・ダウンを含めたかなりの荒療治でありながら、社員の協力を得て、きちんと実行され、目標を達成している。以上からA社はメンバーが従順でセクショナリズムもなく、典型的な「タイプ1」の組織だといえる。
B社はある電力会社の自家用電球製造工場として子会社でスタートし、現在でも株式の46.9%はその電力会社がもっている。社長、そして取締役の半分はその電力会社からきているが、取締役の残りは生え抜きになっている。B社もA社同様、社員は素直で従順である。例えば、1984年に現在の社長が就任し、経営計画を実行に移したとたん、全社的な推進により、年率10数%の売上高の伸びを記録している。また、セクショナリズムもあまりないので、「タイプ1」の組織だといえる。
A社、B社はともに子会社であるという共通点をもつが、これは両社が親方日の丸的で受動的な特徴をもつに至った主因と考えられる。
C社は石油精製工場を子会社の形でもっているが、厳密には石油販売の商社である。顕著な特徴は、総務部、勤労部、経理部、運輸部などの各部門に所属したままで、全国各地の事業所の間を転勤することが頻繁に行われているが、部門間でのジョブ・ローテーションはなく、各部門の長は常務の担当制になっているなど、縦の締め付けが強く、セクショナリズムの傾向が現れていることである。したがって「タイプ2」の組織と考えられる。
D社は調査の前年までは、文字通りお役所の一つだったところである。従来は職能別ライン統制型組織であり、全国に展開する局の局長がアパート、マンションの管理人にたとえられ、局は独立した職能別単位が同居しているにすぎなかった。そのため、縄のれんと言われるほど職能別セクショナリズムが顕著であった。民営化により、サービス別・商品別の事業部制を導入したりしているが、いまでも、上から言われれば、皆本気でやるが、自分で自分の仕事を作っていく力が弱いというトップの発言にみられるように、民営化前の特性をひきずってきている。D社ではメンバーは上から言われることに従順ではあるが、セクショナリズムがあり、「タイプ2」の組織である。
E社は大手の百貨店である。全社的にマトリックス的な組織運営を行っている。例えば、部門間の横断的なプロジェクト・チーム、タスク・フォースの編成を行うことで、水平的なネットワークの形成をめざしている。さらに、人件費を抑制するために人材の積極的な再配置を推進し、本社員からパート、アルバイト、派遣社員といった準社員へ、あるいは準社員から本社員へと相互に雇用形態の転換を図る制度(圧倒的に前者の方が多いが)や、さらには店舗から本部、事業部への人材再配置など人事面での流動化を積極的に進めている。また仕事は職務にではなく人についているものだとの考え方もなされている。つまり、仕事は組織でするというより、むしろ人が行うもので、その人が集まって組織となっていると考えるのである。以上からE社は「タイプ3」の組織に近いものであるといってよいだろう。
F社は都市銀行である。全社的にマトリックス組織になっている。具体的には、次の2レベルで、多元的命令系統をとっている。(i) 本部組織である各部門(大きくは、企画本部、業務本部、国際本部、関連事業室、事業調査室、人事部、検査部、総務部、資金証券部)は各支店に対して、それぞれ別個に命令・指示を与えている。(ii) 平均的な大きさの各支店内部には、出納、融資、窓口、渉外にそれぞれ2名程度、合計で8名前後の支店長代理がいて、各支店長代理の指示のもとに、実際の業務担当者が働くことになるが、例えば融資担当の支店長代理は2名いるので、この段階で融資の業務担当者は上司を2名もつことになる。その上、ある仕事が忙しくなれば、少しでも手のあいている人は、本来の自分の仕事ではなくても、手を貸すことになる。したがって、実際の業務担当者は8人の支店長代理の下で流動的に運用されていることになる。以上からF社は「タイプ3」の組織である。
G社は大手の電機メーカーである。G社では社内で部門間のコミュニケーションを促進するために、各種委員会やプロジェクト・チームを編成することもしているが、なんといってもこの会社の大きな特徴は、組織面での大きな流動性である。技術系の人間が営業に回ったりという組織の壁を超えた部門間の人事異動が積極的に行われているだけではなく、例えば「人事課」のような職能名をつけた課はほとんどなく、「○○課長のグループ」が存在し、そのグループが人事の仕事をすることになる。ただし、各グループ内で命令系統は一元的である。こうした組織のねらいは、個々のメンバーを特定の細分化された業務の担当としていちいち任命するのではなく、各グループ内で人手が必要となった業務に逐次流動的に割り当てていこうということにある。したがって、仕事の内容や量が変わっても、組織をいちいちいじらずに、人材を流動的に運用することで対処しようというのである。これはまさにマトリックス組織の発想であり、以上からG社は「タイプ3」の組織である。
以上のような類別化をもとにして、各社について無関心度指数と一体化度指数の平均値をとると、7社の無関心度指数の平均値の間、および一体化度指数の平均値の間には有意な差がみられた(それぞれ F=3.61, p <0.01; F=4.23, p <0.001)。この平均値により各社をII図上にプロットしてみると図2が得られ、「タイプ1・2・3」の組織は予想されたような相対的位置関係でII図上に位置している。またこのことは、本書「組織設計」でも述べたように、マトリックス組織はII図上でタイプ3の組織においてのみとりうる組織構造であるという数理的組織設計論から導出された関係も支持しているので、数理的組織設計論の結論の傍証ともなっている。
図2. II図による7社の特性比較
(出所) Takahashi (1992) Figure 4。
さらに図3から、次のような事実発見が得られる。 (ア) 営業職はタイプ3の問題解決者型で活性化されていて、事務職はタイプ2の疎外労働者型、技術職はタイプ1の受動的器械型である。 (イ) 部課長クラスはタイプ3の問題解決者型で、一般、係長クラスと比べて、活性化している。 これは通常抱かれているイメージと合致したものである。事務職が官僚的なのは「官僚」という言葉の通りといっていい。営業職については、環境との境界にあって、組織と目的・価値を共有しつつ、それを文字通り積極的に実現することを、言い換えれば、活性化された状態にあることを、常に求められているわけであって、個々の営業マンはある程度自律的な問題解決者として機能することを日常的に要求されている。
図3. II図による職種・職位の比較
(出所) Takahashi (1992) Figure 5とFigure 6を合成したもの