筆者たちによれば、企業の提携能力(alliance capability)の研究には、(a)提携能力がどのように発達するか、(b)企業の提携能力を構成する要素は何か、の二つの流れがあり、近年は(a)により注意が向いていたので、この論文では(b)を扱うことにしたという。まず既存研究から提携管理能力(alliance management capability)を、(1)調整(coodination)、(2)コミュニケーション、(3)きずな(bonding; 親密な個人的きずなのこと)の三つの側面・スキルからなる多次元構成概念とし、それを3つの主要な世界的ソフトウェア・ベンダー(global software venders)であるIBM、Microsoft、SAPのドイツ、スイスのソフトウェア・サービス業者239社の質問票データを用いて、ソフトウェア・ベンダーとソフトウェア・サービス業者との間の企業間(interfirm)関係についてのデータで検証している。ただし、実際の分析(表2)では、(1)(2)(3)は一つの合成指標「提携管理能力」に集約されてしまっている。その合成指標が因子分析(confirmatory factor analysis)を使って作られたものであることは示されているが、仮説1「企業の提携管理能力は、提携における(1)調整(2)コミュニケーション(3)きずなの必要性を管理する明確なスキルをもつことを伴っている」については検証されていない。仮に、この合成指標を受け入れられるのであれば、提携管理能力と共同行為(仮説2)・戦略的目標の達成(仮説3)との間には関係があったことが、表2で示されている。
もっとも、常識的に考えると、IBM、Microsoft、SAPとサービス業者との間には明確な上下関係があり、サービス業者側からすると、提携関係を切られないように「保持(retention?)」に腐心することはあっても、サービス業者がIBM、Microsoft、SAPをコントロールしたり管理したりすることはないだろう。提携「管理(management)」能力を議論するのであれば、ベンダー側のIBM、Microsoft、SAPを調査すべきではないだろうか。