Porter, M. E. (1986). Changing patterns of international competition. California Management Review, 28(2), 9-40. ★★☆ 【2013年5月29日】

 各国での競争が他の国での競争とは本質的に独立であるというマルチドメスティック(multidomestic)な産業(p.11)と、企業の一国での競争ポジションが他の国での競争ポジションからはっきりと影響を受けるグローバル(global)な産業(p.12)を提示して、[産業の?]国際競争パターンが、マルチドメスティックからグローバルへとシフトするときに、国際企業の戦略が変わる(?)(p.31)と説いている論文。

 ただし、どんな風に変わるのかはよく分からない。有名な論文ではあるが、結論はモヤモヤしたままである。ただし、戦略が変わるという話が出てくる前に、当時の世界的航空機メーカー、ボーイング社、マクダネル・ダグラス社、エアバス社の3社がみんな global strategy をもっている(p.23)といっているので、これが「グローバルな戦略」という一般単語ではなく、用語として「グローバル戦略」という意味なのだとすれば……下記の「グローバル経営」の解説がその解説になっている。


【次の本を読むと良く分かる。pp.77-80から抜粋しておく。】
高橋伸夫 (2016)『経営の再生[第4版]―戦略の時代・組織の時代―』有斐閣. 東京大学 UTokyo Biblio Plaza

(2)多国籍企業

 多国籍企業(multinational enterprise)とは国境を超えた一つの企業グループのことである。各海外子会社は形式的には独立法人の形をとっていても、何等かの形で本国親会社の支配を受けている。こうした多国籍企業の経営には、様々なタイプがあるが、その両極端には次のようなものがあるといわれている(cf. Porter, 1986)。

  1. マルチドメスティック(multidomestic)経営: 海外子会社はそれぞれが製造、販売、技術開発といった活動を行ない、それぞれが自律的に経営活動を行なっている。こうした多国籍企業は、いくつもの国の国内企業の連合体となっている。本国親会社は財務面など比較的狭い範囲のみを統制し、多国籍企業全体をまるでポートフォリオのように管理する。例えば、第一次世界大戦前には、米国の自動車市場は45%の関税によって輸入車から守られており、しかも高い輸送費が輸出をも妨げていた。しかし、輸送費が低下し、米国からの自動車輸出で競争が激化すると、ヨーロッパ諸国はすばやく措置をとり、英国は1915年に33.5%の関税、フランスは1922年に45%の関税を設定し、さらに1931年には90%に引き上げた。ドイツは関税、エンジン排気量に基づく税、外国為替規制、部品の国内調達規制などを併用した。こうした動きに対抗するために、フォードとGMは1929年までにヨーロッパに68の生産拠点を確立したのである(Abernathy et al., 1983, pp.46-47 邦訳p.87)。
  2. グローバル(global)経営: しかし、ポートフォリオ的な海外子会社管理を行うマルチドメスティック経営では、本来の企業特殊的優位を生かしきっているとはいえない。例えば、比較優位は生産活動以外の各活動にもあてはまり、製造、販売、技術開発といった各活動毎に固有のものなので、比較優位が存在する場所であればどこでも活動を配置すべきである。そのため、企業は何等かの方法で国と国との関連性をとらえ、活動を全世界で統合する必要性が生じ、本国親会社は海外子会社の活動を綿密に調整するために広範囲の統制を行なった方が良いことになる。例えば、活動ごとにグローバルに集中させる条件としては、

    @活動の規模の経済。部品生産の集約の場合には、部品の仕様の共通化・標準化。
    A活動に特有の(急勾配)学習曲線。
    B活動の行われる地域での比較優位。
    C研究開発と製造のように、共存させることで調整がしやすくなる活動がある。
    D低い輸送費用。

    が考えられ、逆に、活動ごとにグローバルに分散させる条件としては

    @各国政府の行なう民族化政策や関税障壁などの政策。
    A為替レート変動や政治的リスクなど1ヶ国で活動を行うことから生じるリスク。

    が考えられる。例えば民間航空機製造業では、表3のような条件から、各活動ごとにグローバルに集中、分散が図られているといわれる(Porter, 1986)。
  3.  企業独自の(firm specific)固定的経営資源である経営管理能力、各種の技術・ノウハウといったものは、企業内で長期にわたって形成されてきたものであり、市場を介して売買することが不可能なものである。こうした企業独自の固定的経営資源は、多国籍企業の中で、一方的あるいは相互的に移転させることで、競争優位が生じると考えられている。例えば、P&G (Procter & Gamble)の新型液体洗剤開発では、米国本国のみでなく、日本で開発された低温度の水の中で洗浄力を保つ表面活性剤技術と、ミネラル成分の多い硬水の中で洗浄力確保する欧州子会社の技術とが組み合わされて成功したといわれている(Wall Street Journal, April 29, 1985, pp.1 & 17)。そして、国際経営の分野でも、1980年代に入ると、多国籍企業はポートフォリオ的管理からグローバル経営への時代へと風向きが変わり始めるのである。

    表3. 民間航空機製造業における活動ごとのグローバル集中・分散

    活動集中か分散か条件として作用する特徴
    製造集中 規模の経済
    組立における急勾配の学習曲線
    低輸送費用
    販売集中 高度に熟練した販売要員による個別商談
    低頻度の商談
    技術開発集中 製造部門と同じ立地であることに利点
    サービス分散 航空機がどこに着陸しようとも部品と修理アドバイス
    調達分散 買い手であり、航空会社の所有者である政府のご機嫌をとるために部品を調達

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