Meyer, K. E., Ding, Y., Li, J., & Zhang, H. (2014). Overcoming distrust: How state-owned enterprises adapt their foreign entries to institutional pressures abroad. Journal of International Business Studies, 45, 1005-1028. https://doi.org/10.1057/jibs.2014.15 ★☆☆ 【2022年6月8日】


 企業が海外進出する際には、

  1. 設立形態(establishment mode):
    1. ホスト国の現地企業を買収する(acquisition)のか、
    2. ホスト国でゼロから(from scratch)子会社を設立するのか(これをgreenfieldと呼んでいる)
  2. 株式支配水準(equity control level): 出資比率をどの程度にするのか
の2段階の決定(two-stage decision)があるとしている(p.1009)。

 この論文では、中国の国有(state-owned; SO)企業は、中国の民間(privately owned; PO)企業と比べて、イデオロギー的対立、国家安全保障への脅威、中国政府の支援による不当な競争優位といった懸念から、ホスト国での制度的な圧力にさらされているために、2段階の決定が影響を受け、(A)設立形態はグリーンフィールド、(B)出資比率は低めを選ぶ傾向があるのではないかと予想している。特にホスト国の技術水準が高いほど(仮説1・仮説2)、より法治(rule of law)国家であるほど(仮説3a・仮説4a)、より株主保護(shareholder protection)が強いほど(仮説3b・仮説4b)、その傾向は強くなると予想する。

 そこで、上海証券取引所と深せん証券取引所に2009年に上場している中国企業について、筆頭株主が政府部門または他のSO企業である場合にはSO企業、個人またはPO企業である場合にはPOと定義すると、A株上場企業1686社のうち914社がSOになった。そこから資金調達・税務目的の会社を除き、エネルギー、通信サービス、公益事業の分野はほとんど海外子会社がSO支配だったので、これらも除くと569社になった。さらに回帰分析する際にホスト国変数の欠損があるために、最終的なサンプルは298〜386社となった。結果は概ね検証されたということらしい。

 しかし、米国では、外資委員会(committee on foreign investment)の承認が必要(p.1010)なわけだから、当然、米国進出の2段階の決定は、米国の承認基準で決まってくるわけで、そちらを調べた方が早い。実は386社中78社(20%)の進出先は米国なのである(Table 1)。また、Table 1を見るとホスト国はかなり偏りがあり、上位7か国で211社(55%)を占めるので、7か国の外資委員会の承認基準を調べた方が確かで実用的だろう。なぜそれを表面的なデータ処理で済まそうとするのか、研究アプローチ的に疑問である。

 実際、パナマとリベリアの会社は海運業だと書いてあるが(p.1012)、3番目に会社数が多いリベリアは25社中24社がグリーンフィールドで、これは便宜置籍船のペーパー・カンパニー設立なのだろうと容易に想像がつく。おわかりだろうか。そもそもホスト国が、船舶に課す税金を低く抑えたり、乗員の国籍要件等に関する規制を緩やかにしたりして誘致しているわけだから、制度的圧力とは真逆の条件なのに、(A)設立形態はグリーンフィールドだったことになる。この論文が根拠にしている単純な論理「制度的圧力があるほど設立形態はグリーンフィールド」は、破綻していないだろうか。

 現地子会社の支配水準(level of control)は配当権(? cash flow right)で測定したとあるが、配当権と議決権(voting right)は一致しない(p.1012)と書いているので、多分、現地子会社は種類株を発行しているのであろう(論文に書いてあるようなピラミッド型の所有構造が原因ではそんな現象は起こらない)。おそらく、中国の国有企業も、政府所有株の議決権が他の株式の何倍かになっている種類株を発行しているのではないか。実際、日本でも、国内外で石油・天然ガス等の権益を持つINPEX (旧社名: 国際石油開発帝石)は種類株として有名な黄金株(正式には拒否権付種類株式)を発行しているが(経済産業大臣がもっている)、これは1株だけで拒否権がある。つまり、種類株を発行している場合には、表面的な持ち株比率での筆頭株主は無意味になるし、ましてや配当権で支配水準を測定するなど論外だ。まずは、すべてが普通株であることを確認する必要がある。

 そもそも、中国の国有企業という概念自体が漠然としすぎている。企業形態論の議論では、法律形態と経済形態は別で、法律形態としては、日本だと政府の出資比率にかかわらず、NTTやJR各社のような特殊会社法「日本電信電話株式会社法」「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」が存在している特殊会社がある。そのうちJRの本州3社は、法律形態としては、2001年に特殊会社法の適用除外になったが、経済形態としては、その後も政府の出資は残っていて、全株式の民間への売却が終わって完全民営化したのは、JR東日本が2002年、JR西日本が2004年、JR東海が2006年だった(高橋, 2016, ch.3, 付録1「企業形態」)。また、20世紀末の日本で、銀行に対して公的資金の注入が行われた際には、政府は、議決権はないが、配当は優先されるという優先株(これも種類株)を買ったのだが、それは、ひとたび配当を受けられなくなると議決権が発生するという条件付きだったので、配当しないと「国有化」されてしまうと後々大事になった。中でも、りそなホールディングスは、結局2003年には、議決権の68.25%を政府(正確には預金保険機構)が握ることになり(完済したのは2015年)、事実上「国有化」されたと報道された(高橋, 2016, ch.4, 付録1「経営統合と1990年代以降の都市銀行再編」)。しかし「国有化」の明確な定義はない。


《参考文献》

高橋伸夫 (2016)『経営の再生[第4版]: 戦略の時代・組織の時代』有斐閣.


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