ブランド・ロゴ(brand logo)で、左右対称(symmetry)のロゴに比べて、左右非対称(asymmetry)のロゴは刺激的(arousing)で興奮(excitement)の知覚を高めると主張する論文。
論文のタイトルにも出てくるブランド・パーソナリティ(brand personality)とは、ブランドの永続的で人間的(human-like)な特徴を指し(p.90)、Aaker (1997)は、次の5つの次元を挙げている(p.92):
たとえば研究1aでは、左右対称/左右非対称のロゴ・ペアを4種類(ロゴ・ペア1〜ロゴ・ペア4)、つまり計8個(=2×4)のロゴを用意した。この4種類のロゴ・ペアは、この論文のウェッブ・ページからダウンロードできるSupplement Materialに表示されている(そのうちロゴ・ペア1とロゴ・ペア2はFigure 1でロゴ・ペアA、ロゴ・ペアBとして示されている)。
Amazon Mechanical Turk (MTurk)で募集した306人には、この8個のロゴをランダムに見せて、それぞれのロゴについて、上記の5次元に挙げた3×5=15個の形容詞リスト(並ぶ順番はランダム)から、自分の認識を最もよく表す3個の形容詞を選ばせた。「興奮」の3個の形容詞から何個選ばれたかをカウントすると、その平均は(p.92の文章から表に起こすと)、次のようになる。
左右対称 | 左右非対称 | |
---|---|---|
ロゴ・ペア1 | 0.61 | 0.77 |
ロゴ・ペア2 | 0.78 | 1.08 |
ロゴ・ペア3 | 0.68 | 0.72 |
ロゴ・ペア4 | 0.75 | 0.77 |
全体 | 0.71 | 0.83 |
分散分析(ANOVA)すると、左右非対称の方が、興奮を表す形容詞が有意に多く挙げられていた(p<0.001)ということになるようだ。
ただし、この最初の段階で既にいくつもの疑問点がある。5次元の他の次元では、左右非対称の方が、洗練では多いものの、誠実、有能、頑丈では少なくなることまでわかっているのに、なぜ興奮だけを抜き出して考えるのか、釈然としない(p.100では future research になっているが)。また、ロゴの視覚的情報量をJPEGファイルのサイズで測定しているが、ロゴ・ペアBで左右対称が2.77KB、線を上下に動かしただけのはずの左右非対称が2.54KBになっている(Figure 1)ので、不思議に思って、線の長さを測ってみたら、左右対称が1.5cm、左右非対称が1cmで、実は長さが違っていた。仮にJPEGファイルのサイズで測った視覚的情報量を本当に重視するのであれば、長さを変えるべきではない。ではなぜ変えたのか。それに、左右対称とされているロゴにしても、色まで考慮すれば、左右対称ではない(数学の問題として出題されたら不正解だ)。おそらく、より優先される何かがあるのだろう。それを知りたい。また、ロゴ・ペアAとロゴ・ペアBの左右非対称の方は実は点対称になっているが、同じ左右非対称でも、こうした点対称なロゴと不規則に対称性が崩れているロゴ(たとえば研究1bで使うロゴ・ペアD)では受ける印象がかなり異なる。それらを一緒くたに扱って、ロゴが左右非対称だと興奮すると言ってしまっていいものなのか。
そしてより本質的な疑問点は、そもそも非対称性の知覚とは何かということである。研究3では、既存ブランドのトップ100のデータに、オリジナルで202人の各人に100からランダムに選んだ10個のロゴについて非対称性などを聞いたデータを加えて分析している。実は、研究1でも各ロゴについて左右対称か左右非対称かを聞いているのだが(p.91)、本来これは数学の試験問題であり、正解がある。それをあえて聞いているわけだ。では、実際のブランド・ロゴが数学的には左右非対称なのに、被験者が左右対称だと感じるというような場合、対称性の知覚に、たとえば誠実で有能で頑丈だが野暮ったくて興奮はないブランド・パーソナリティが影響しているとは考えられないだろうか。つまり、ロゴの非対称性の知覚とブランド・パーソナリティのどちらが独立変数なのかが、実は最大の問題なのである。だから論文タイトルではinterplay(相互作用)といっているのか・・・と一瞬思ったのだが、General Discussion (pp.99-100)を読むと、そういう意味で相互作用と言っているわけではなさそうで、残念。ついでに蛇足的コメントだが、研究2bのTable 1とFigure 3は、いわゆる多段階の回帰分析を行っているが、正確に推定しようと思ったら、共分散構造分析を行うべきだろう。
Aaker, J. L. (1997). Dimensions of brand personality. Journal of Marketing Research, 34(3), 347-356. https://doi.org/10.1177/002224379703400304