研究1 (Study 1)の調査と研究2 (Study 2)の実験の二つの研究からなる論文。どちらの研究も、(a)アイデア具象化(idea enactment)、(b)上方影響戦術(upward influence tactics)、(c)創造性評価(creativity assessment)の3つの変数を取り上げている。
研究1は、中国南部のゲーム・アニメの会社1社(a video game and animation company)の192人の従業員と54人の監督者(supervisor)の質問票調査で、
その結果、Figure 2 (p.590)で示されるように、(a)アイデア具象化と(b)上方影響戦術がともに高いときに、(c)創造性評価が高くなることがわかった(仮説1を支持)。
研究2は、米国の大西洋岸中部の大学で294人の学部学生を使った実験室実験で、「新製品会議」と題するビデオを見て、いくつかの質問に答えてもらった。ビデオは (A)新規性、(B)アイデア具象化、(C)上方影響戦術のそれぞれの高低の組み合わせで2×2×2=8通り用意された。創造性は、アイデアが(1)独創的だ、(2)問題解決の新しいやり方だ、(3)ブレークスルーだ、(4)有用だ、(5)顧客の問題解決に有用だ、のそれぞれについて7点尺度で答えてもらった。その結果、(A)新規性が高いときはFigure 3 (p.595)で示されるように、(B)アイデア具象化と(C)上方影響戦術がともに高いときに創造性評価が高くなるが、(A)新規性が低いときはFigure 4 (p.595)で示されるように、(B)アイデア具象化が高いと、かえって創造性評価が低くなる(仮説2を支持している?)。要するに、新規性のないアイデアを具象化すると、創造性が低いことがよく分かってしまうということか。
研究1も研究2も興味を引く結果ではある。ただし、どうしてこの研究1とこの研究2を組み合わせる必要があったのか疑問である。そもそも研究1はゲーム・アニメの会社での調査なので、当然の結果といえば当然の結果だろう。果たして、それ以外の業種・業態にも一般化できるかどうかは分からない。研究2は、学部学生相手の実験のせいもあるのだろうが、新規性の低い製品の例があからさま過ぎて(既にある製品)、これだと、説明すればするほど、創造性評価が低くなるのは当然に思える。そして、研究1・研究2の話に入る前の、論文の前半部分に書いてある話は、この研究1・研究2とはほとんど何の関係もないと思う(なので、ここでは説明を割愛している)。そこで問題になっている新規性は、研究1・研究2で扱われている新規性とは、全然レベルの違う新規性で、もはや従業員のアイデア具象化や上方影響戦術でなんとかなるような次元の新規性ではない。そもそもそれを事業機会として認識できる経営者は、ごく限られた一握りの人しかいなかったというレベルの新規性のお話であり、だからこそ面白いのだ。