Lowry, S. M., Maynard, H. B., & Stegemerten, G. J. (1927; 1932; 1940). Time and motion study and formulas for wage incentives. New York, NY: McGraw-Hill.
邦訳, Stewart M. Lowry他 (1932)『時間研究による作業標準決定法』(野田信夫, 加藤威夫 訳). マネジメント社.
【解説】
マーチ=サイモン(March & Simon, 1993, pp.33-34 邦訳pp.18-19)が時間研究の例として取り上げたのは、この分野で標準的とされる本書『時間研究による作業標準決定法』の第3版(1940)だった。ウェスティングハウス・エレクトリック社の時間研究の専門家3人が書いている。マーチ=サイモンは、特に本書の第2部「公式(formulas)」を例にして説明している。ここでいう公式とは、重回帰式のようなイメージのものである。色々な変数に値を入れて、いわゆるダミー変数に相当する定数の組合せも含めて、所要時間を推定できるようにしたものを彼らは公式と呼んでいた。ただし、実際の公式は線形とは限らず、もっと複雑な計算式を組み込んだものもあった。本書の最後の三つの章、第33〜35章で、それぞれ次の活動についての公式が紹介されている:
最後の2活動b、cは、普通は高度な熟練労働者が行う活動であって、製造業を代表する最単純活動ではない。しかしそれでも、課業達成に必要な具体的ステップは、高度にプログラム化されうるし、実際されている。たとえば、bの旋盤操作の細かい記述は、
といった調子で、この最初の10個から始まり、全部で183個の細かい操作(detail operations)からなると記述される(p. 388)。このように精密な行動記述を行っても、たとえば「A. 部品を持ち上げて機械に運びなさい」という指示は、いろいろなやり方で実行できる。そこでさらに、時間標準(たとえば Aに許される時間は0.0049時間=約18秒)を設定することで、労働者の実行方法選択の自由を厳しく制限するのである(March & Simon, 1993, pp.33-34 邦訳p.19)。このように、複雑な活動も、基本動作(basic motion)に要素分解して、その要素の単位時間を合計することで、全体の標準時間を算出できると考えて、テイラーが提案したのが時間研究だった。