Kushwaha, T., & Shankar, V. (2013). Are multichannel customers really more valuable? The moderating role of product category characteristics. Journal of Marketing, 77(4), 67-85. ★★☆ 【2017年4月26日】

 マルチチャネルとはいっても、カタログとウェブの2チャンネルを扱った論文。まず、22の商品分類について、米国東部の某有名大学の学生67人のアンケートのデータを使って、実利的/快楽的、低リスク/高リスクの2軸で4象限に分類する。それから2001年〜2004年の412,424人分のデータを分析する。一番わかりやすい結果は、各象限で、カタログのみ、ウェブのみ、両方(マルチチャネル)の顧客の4年分購買額(それをmonetary valueと呼ぶ)の平均が、次の表のようになるというもの(p.79から数字を拾って作成)。要するに、従来、マルチチャネル(「両方」)にすると購買額が増えると言われてきたが、それは網掛けした快楽的商品については当てはまるが、実利的商品についてはそうでもなかった、というのが結論である。

 ただし、本当にそうなのかは疑問である。

  1. 2001年〜2004年のデータが古すぎるのか、カタログのみ71.8%、ウェブのみ5.3%、両方22.9% (p.75, Table 4)なのだそうだが、ウェブのみが5.3%というのは低すぎだろう。インターネット通販が普及する以前のデータを使った分析、と限定すべきだと思われる。
  2. 実利的(utilitarian)⇔快楽的(hedonic) はhedonic utility (HEDUT) 尺度を使って測定している。Web Appendix 2に、その質問項目8項目と因子分析の結果が示されているのだが、明確に、第一因子の(面白い、興奮する、わくわくする、楽しい)の快楽的4項目、第2因子の(機能的、実用的、使いやすい、必要)の実利的4項目とに分かれており(各質問項目は7点尺度)、通常であればこの2軸で表現するのが当たり前で、事実Table 5 (p.77)には、22の製品分類別の実利的スコア、快楽的スコアの平均点が記載されている。にもかかわらず、どうもこの両者を引き算して一次元化したもの: 快楽的スコア−実利的スコア を使って実利的/快楽的と分けるらしく、Figure 2 (p.76)はそうなっている。ただし、これらはすべて類推であって、Figure 2をどうやって描くのかは全く説明がない。しかも、この解釈でも疑問が残るのは、「実利的カテゴリーのみ」UTL、「快楽的カテゴリーのみ」HEDというダミー変数の存在である(p.75)。一次元化したのであれば、ダミー変数は一つでいい(たとえば、実利的なら1、快楽的なら0)。わざわざ二つにしたということは、たとえば「実利的かつ快楽的」(1, 1)という場合を認めるからに他ならないのだが、説明がない。
  3. 実利的/快楽的、低リスク/高リスクの2軸で製品を4象限に分類するというのだが、個々の取引データを取引商品で分類しているわけはなくいので(でないとiさんの「4年分購買額」にならない)、多分、カタログやウェブを出している会社をたとえばアパレル(商品カテゴリー1に相当)の会社と分類しているのだと思うが、これまた類推で、そうした説明や記述が全くない。
  4. 上掲の表を計算するだけならば、単純に4象限に場合分けして平均をとればいいだけなのに、なぜpp.75-76のような消費者行動モデルを入れる必要があるのか、説明がない。消費者行動モデルを入れると、平均まで変わってしまうのだとすると、それはそれで面白いが、本当に変わってしまうのかも説明がない。変わらないのだとすると、この論文の分析の大部分は無意味である。
  5. そもそも、実店舗とウェブのような組み合わせだと、マルチチャネルっぽいが、カタログとウェブはマルチチャネルと呼べるのだろうか? この論文の場合、「伝統的チャネル(店、カタログ)」と何度も使っておいた後で、データの都合で、伝統的チャネル(カタログのみ)にすり替えているのだが、ごまかしである。
  6. ちなみに、経験的には、同じウェブ・サイトで何度も購買していると、そのうちカタログまで送り付けられてくるようになるが、この場合、確かに「両方」はお得意さんの証だが、因果関係は逆である。「両方」だから購買額が多くなるのではなく、購買額が多い客が「両方」になるのである。つまり、この論文の分析結果が、仮に正しいとしても、マルチチャネルになると購買額が多くなるという結論は出てこない。


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