Kotha, S. (1995). Mass customization: Implementing the emerging paradigm for competitive advantage. Strategic Management Journal, 16, 21-42. ★★☆ 【2012年10月10日】

 大量生産は規模の経済を追求するもので、通常はそこでの効率性(efficiency)と柔軟性(flexibility)との間にはトレードオフの関係があり、カスタマイゼーションとは両立しないと考えられてきた。しかし、フレキシブル生産システム(flexible manufacturing system; FMS)やCAM (computer-aided manufacturing)のような新しい生産技術の出現により、効率性と柔軟性の間にあるとされるトレードオフの関係を疑問視する研究者も多く出てきた。そこで、この論文で取り上げられるのは、日本のナショナル自転車工業(現 パナソニック サイクルテック)、略称NBIC (National Bicycle Industrial Company)である。ナショナル自転車は、もっている三つのブランド「パナソニック」「ナショナル」「光」のうち、ハイエンドのブランド「パナソニック」用に、CAMとCNC (computer-assisted numerical control)を使ったPOS (Panasonic Ordering System)を1987年までに導入した。ナショナル自転車は、1992年で約70万台を生産しているが、90%は3ブランドを生産している大量生産工場(mass production factory)で生産し、POSを導入した「パナソニック」ブランドのみのマス・カスタム工場(mass custom factory)で生産したのは2%、約12,000台であった。カスタムメイドの「パナソニック」自転車の価格は、20-30%程度高くなっただけだった。しかし、日本で真のマス・カスタマイズド自転車としての「パナソニック」ブランドの認知度が上がり、「パナソニック」ブランドの売り上げは倍増して、総売上高の27%に達した。

 ということで、会社としては、大量生産とマス・カスタマイゼーションを同時追求することが競争優位につながるというのが、この論文の結論らしい。ただし、効率性と柔軟性の間のトレードオフは、会社レベルで考えるのではなく、常識的には生産ライン等のレベルで考えるものではないだろうか? それを会社レベルの話にしてしまうのは、議論のすり替えである。また、マス・カスタマイゼーション(mass customization)とは、個別の顧客のニーズに合致した製品やサービスを大量生産と同等の低コストで供給するビジネス手法を指しているはずだが(Pine, 1993)、価格が20-30%上がってしまった(p.27)というのは許容範囲なのであろうか? ちなみにパナソニック サイクルテックの沿革によれば、国内「パナソニック」ブランドの導入は1986年12月、イージーオーダーサイクルPOS開発導入は半年後の1987年6月ということになっており、「パナソニック」ブランドの確立には良いタイミングだったことがわかる。


《参考文献》

Pine II, B. J. (1993). Mass customization: The new frontier in business competition. Boston, Mass.: Harvard Business School Press. (IBI国際ビジネス研究センター訳 江夏健一, 坂野友昭監訳 『マス・カスタマイゼーション革命: リエンジニアリングが目指す革新的経営』 日本能率協会マネジメントセンター, 1994)


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