Hofstede, G., Neuijen, B., Ohayv, D. D., & Sanders, G. (1990). Measuring organizational cultures: A qualitative and quantitative study across twenty cases. Administrative Science Quarterly, 35(2), 286-316. ★★☆ 【2012年5月30日】

 この論文は、国民文化(national culture)研究 (Hofstede, 1980)で一躍有名になったHofstedeが、1980年代の米国の組織文化・企業文化ブームに乗って、Hofstede (1980)と同じ手法を使って、組織文化(organizational culture)を共同研究した論文である。この論文の内容は、Hofstede (1991)の第8章にも再構成されて収録されているが、統計処理の部分は割愛されている。(ちなみに、Hofstede (1980)は多国籍企業IBM社1社についての調査だったので、企業文化の比較はできなかったわけだが、実はIBMは、Hofstede (1980)ではHERMESとニックネームで仮称されていたが、この論文では堂々とIBM社と明記されている(p.287)。ただし、Hofstede (2002, p.1357)によれば、IBMはHERMESがIBMであることをまだ公式には認めていないらしい。)

 この研究では、デンマーク5、オランダ5の計10の異なる組織から20のユニット(unit)を選んで調査している。管理者が文化的に同質的であると判断した組織全体または組織の一部をユニットとして設定している。各ユニットの大きさは60人から2,500人である。調査は3段階で行われた。第一段階(first phase)では、各ユニットから9人を選んで、それぞれ2〜3時間ずつインタビューしている。第二段階(second phase)では、135問の質問からなる質問票で質問票調査を行っている。これは各ユニットから、管理者25人、大卒レベルの非管理者25人、非大卒レベルの非管理者25人を層別に無作為抽出した標本に対して行われ、計1,295人(各ユニット平均65人)から質問票が回収された(60人のユニットからは、どのように抽出したのだろうか?)。第三段階(third phase)では、質問票とインタビューで、ユニット・レベルのデータを集めている。

 この調査データを分析した結果を、この論文の三つのリサーチ・クエスチョン(なぜか「仮説」という呼び方もしている)に即して整理・要約すると、次のようになる。

  1. 【組織文化を定量的に測定できた】Hofstede (1980)に則って、価値(values)に関する10の質問、知覚された慣習(perceived practices)に関する18の質問への5点尺度(5-point scale)の回答を20のユニットで分散分析してみると、価値についての1つの質問を除いた27の質問で、F値が0.1%水準のF値を超えていて、ユニットによって統計的に有意な差のあることが分かった(p.296, Table 1)。
  2. 【組織文化を測定する意味のある次元が見つかった】Hofstede (1980)に則って、因子分析を行い、価値についての57問からは3因子(p.300, Table 2)、知覚された慣習についての61問からは6因子(p.303, Table 3)の組織論の文献と関連のある因子を抽出できた。この因子(factor)をHofstedeは次元(dimension)と呼ぶわけだが、このうち知覚された慣習についての6次元は、組織による慣習的文化(practical culture)の違いのチェックリストになりうる(p.305)。
  3. 【組織文化は他の組織特性にも影響されていた】知覚された慣習についての6次元と組織特性との相関係数を見ると(p.307, Table 4)、国籍、人口統計学的な特性(性別、年齢、教育)、管理システムなどを反映 (reflect) している(p.311)。

 ただし、この論文の分析は、Hofstede (1980)同様の問題を抱えたままである。まず、因子分析に用いられたデータは、実は1,295人の個票データではなく、各ユニットの平均値である。これはHofstede (1980)でも国別の平均値を用いていたのを踏襲しているもので、この論文では “ecological” な(おそらく日本語の「エコな」に近いニュアンス)データ、相関、因子とか呼んでいるのだが、実に怪しい。そのため、57変数、61変数もの因子分析で、データは20ケースしかない。通常は、変数の数よりもはるかに多いケース数のデータを用いるのに、逆に、ケース数の実に3倍もの数の変数を使って因子分析を行うのでは、因子が不安定になり、教科書的にはどうみてもおかしい。そのことはp.299でも触れられていて、言い訳も連ねられているのであるが、私には理解不能である。Hofstede (1980)の場合には、約7万人のデータを用いていたので(詳しくは高橋(2006, 第5章)に解説がある)、まあ、大目に見るか……的なところもあったが、千人ちょっとの人数であれば、そのまま個票データで分析すべきであろう。

 また組織文化とはどこの部分を指しているのかという疑問も残る。リサーチ・クエスチョン1に対する答からすると、20のユニットによる違いはすべて組織文化の違いなのだと言っているはずなのだが、しかし、もともと10の組織から選ばれたユニットであることを考えれば、10の組織で平均値を比較すべきであるが、それをやらずに20のユニットで比較している。Table 1 (p.296)で、本来 “20 (organizational) units” と表記すべきところを “20 organizations” と言い換えてしまっているのは、明らかに欺瞞である。それに、仮にユニット・レベルでの比較でいいのだとすれば、そもそもHofstede (1980)はIBMの支社レベルでの比較をしていたのであるから、Hofstede (1980)でも組織文化の比較をしていたことになり、違いがなくなってしまう。そうしたことを横に置いておいたとしても、リサーチ・クエスチョン3に対する答のように、国籍に左右されているのだとすると、そもそも国民文化と組織文化の違いが分からなくなる。そうした諸要因によって説明しきれないユニークで特異的な要素(unique and idiosyncratic elements)の余地(room)は残っている(p.311)としているのだから、要約(p.286)にもある組織的特異性(organizational idiosyncrasies)こそが、組織文化なのではないだろうか。

 また、分析には直接関係ないが、価値(values)を核にして、そこから表面に向かって儀礼(rituals)、英雄(heroes)、シンボル(symbols)という慣習(practices)が玉ねぎの皮(successive skins of onion)のように3層構造をなしている図(Figure 1, p.291)があるが、儀礼、英雄、シンボルは単に並列なのではないだろうか? 階層構造がある根拠が分からない。それに、p.288にもあるように、確かにHofstede (1980)では、国民文化の4次元を提唱しているが、因子分析で出てきたのは二つだけで、権力格差(power distance)と不確実性回避(uncertainty avoidance)は、かなり恣意的に作られた指標なので(詳しくは高橋(2006, 第5章)を参照のこと)、4次元だ6次元だと同列に扱っていいものかどうかも疑問が残る。


《参考文献》

Hofstede, G. (1980). Culture's Consequences: International Differences in Work-Related Values. Newbury Park, CA: Sage. (Abridged ed. Beverly Hills, CA: Sage, 1984.) (1984年版の訳: 萬成博・安藤文四郎監訳『経営文化の国際比較−多国籍企業の中の国民性−』産業能率大学出版部, 1984)

Hofstede, G. (1991). Cultures and organizations: Software of the mind. London, UK: McGraw-Hill. (岩井紀子・岩井八郎訳『多文化世界』有斐閣, 1995)

Hofstede, G. (2002). Dimensions do not exist: A reply to Brendan McSweeney. Human Relations, 55(11), 1355-1361.

高橋伸夫 (2006).『経営の再生−戦略の時代・組織の時代−』第3版, 有斐閣. 東京大学 UTokyo Biblio Plaza


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