Hannan, M. T., & Freeman, J. (1984). Structural inertia and organizational change. American Sociological Review, 49(2), 149-164. ★★☆ 【2011年7月13日】【2016年11月30日】

 この論文では、個体群生態学の基本的な考え方が、仮定から定理を導くという一風変わった方法で整理、説明されている。経済学の論文ではよくあるパターンだが、数学を使ってこねくり回しているわけではないので、仮定から定理はほぼ自明の感じになってしまっていて、しまいには定理の導出に使われない仮定5, 7, 8のような独立の仮定まで出てきてしまうので、この表現形式自体は無意味であろう。

 一般に組織論では個体レベルつまり組織を単位とした分析が行われる。それに対して、個体群生態学では個体群レベルの分析が行われる。たとえば、組織であれば進歩や学習として扱われる内容が、個体群レベルでは、劣った性質の個体が淘汰され、優れた性質の個体が生き残ることによる個体群の進化として扱われることになる。同様に、個体群生態学では、組織には構造的慣性(structural inertia)があるとするが、これも生態学的進化の淘汰プロセスの結果として、構造的慣性の高い組織が生き残ったからだという理解になる(p.149)。ではどうしてそうなるのか。

  1. この論文では高い信頼性(reliability)と高い説明可能性(accountability)をもった組織が生き残るという仮定(仮定1)から出発する。信頼性と説明可能性が高くなるには、組織構造が日々再生産されることが必要になり(仮定2)、このように高度に再生産的であることが強い慣性的圧力(strong inertial pressures)を生み出す(仮定3)。したがって、構造的慣性が高い組織は生き残る(定理1)ということになる。同様にして、
  2. 組織は年齢とともに構造の再生産性が高まり(仮定4)、仮定2と仮定4から、構造的慣性は年齢とともに単調に増加し(定理2)、仮定4と定理1から、組織の死亡率(death rate)は年齢とともに減少する(定理3)。
  3. 構造的慣性は規模とともに増加する(仮定5)。
  4. 再組織化(reorganization)を試みると信頼性が低下するので(仮定6)、仮定1と合わせて、再組織化の試みは死亡率を増加させる(定理4)。
  5. 組織の死亡率は規模とともに減少する(仮定7)。
  6. 構造的な再組織化は新しさの不利益(liability of newness)を生み出す(仮定8)。
  7. 構造的変化を試みる組織の死亡率は、再組織化の期間が長くなるほど高くなり(仮定9)、 複雑性は再組織化の期待期間を増加させるので(仮定10)、複雑性は再組織化による死亡リスクを増加させる(定理5)。

 とはいうものの、この論文を読んでも、個体群生態学はさっぱり分からない。結局は、引用されている代表的な論文を読むしかないということなのだろう。そうした代表的な論文を読んだことのある人が、この論文を読むと、頭の中が整理できるという類の論文である。


Readings BizSciNet

Copyright (C) 2016 Nobuo Takahashi. All rights reserved.