まず最初に断っておくが、題名にもある「オープン・システム」の正しい組織論的意味は、環境との間でやりとりのあるシステムのことである。ところが、この論文では、「誰でも歓迎だよ」的な「オープン」な組織のことを指しているので、誤解なきよう。また、この論文では、要約を含めて冒頭から「ビジネス・インキュベータやベンチャー協会」のような起業家支援組織を扱っているかの体で話を進めているが、取り上げられているのは、イタリアに本部のある会員中小企業34,000社を擁するWorking Togetherなる非営利団体(おそらく仮称)が、年1回開催する「B2BMatch」なる催し物で、これはどうもバイヤー(大企業)もやってくる見本市のようなものらしい(p.1373)。見本市の前に行われている準備は、日本で20世紀末に流行っていた異業種交流会(当時は「ネットワーキング」と格好つけて自称していた)みたいなものか。なのでインキュベータのような支援組織の話を期待して読んでいると肩透かしを食わされる。おまけに、使われている手法がグラウンデッド・セオリーなので、長々と手続きが続いてインタビュー等がまとめられるだけで、34ページもある論文を読まされた挙句、何も面白い知見がない。
この論文を読んで失望した人のために付言しておくと、ベンチャーを大企業に売り込むために引き合わせるマッチングに関する研究はちゃんとあって、日本だとまるで「お見合い」のような事例も報告されている(Nakano & Ohara, 2019)。
Nakano, K., & Ohara, T. (2019). Omiai: Japanese initial private offering. Annals of Business Administrative Science, 18(2), 75-84. https://doi.org/10.7880/abas.0190212a