この論文は、組織アイデンティティが組織イメージとの関係で変わっていくと主張している。ただし何か経験的証拠を提示しているわけではなく、あえて言えば、シェル石油の話が解釈されているくらいである。途中(p.66)と最後(pp.77-78)にはCorporate Identity (CI)の話も出てきて、日本でバブルの頃に流行ったCIを連想させて懐かしいが、多分にCIの売込み臭を感じてしまうのは気のせいか。
私が思いつくものでは、日本のニコンのCIの事例の方が、この論文のシェル石油の話よりもずっと分かりやすい。ニコン(日本光学)は、当時、カメラ誌にコンパクトカメラの広告を載せた。その広告はなぜか月光仮面がキャラクターで使われていたのだが、これを見た社長が違和感を覚え、広報担当者を呼び出して、なぜ月光仮面なのか? うちのイメージは月光仮面なのか? と問いただしたという。このことをきっかけに社内で議論が始まった。当時のニコンの主力製品は半導体製造装置のステッパーであり、既にカメラの比率は随分小さくなっていた。「日本光学はカメラ・メーカー」という組織アイデンティティを見直そうというわけである。その結果、いわゆるCIで、会社名も日本光学から商標だったニコンに変え、ロゴも企業カラーも刷新した。
要するに、この論文で説いているように、突きつけられた(論文ではprojected (投影された)が多用される)組織イメージを見て、組織アイデンティティを修正したのである。ただし、組織イメージに合わせて組織アイデンティティを変えると誤解している人が多いようだが、このニコンの事例からもわかるように、合わせているわけではない(シェル石油の例も合わせているわけではない)ので、注意がいる。鏡で身だしなみを整えるように、単に、組織イメージを見て組織アイデンティティを変えるのである。ただし、そのような事例はニコンをはじめとして探して来ることはできるが、一般化できる話なのかどうかは分からない。