Eisenhardt, K. M.
(1989).
Building theories from case study research.
Academy of Management Review, 14(4), 532-550.
★★☆ 【2014年5月21日】【2017年6月14日】
ケース研究から帰納的に理論構築するプロセスを次の8ステップで説明した論文。
- 始める (Getting started)
- ケースを選択する (Selecting cases)
- データ収集方法を決める (Crafting instruments and protocols)
- フィールドに入る (Entering the field)
- データを分析する (Analyzing data)
- 仮説を立てる (Shaping hypotheses)
- 文献を調べる (Enfolding literature)
- 手仕舞いする (Reaching closure)
で、結局、彼女の言っているケース研究って何? というのが、今となってはよく分からない。多分、1980年代当時、ジャーナルに氾濫していた安易な@アンケート・データ(面接調査も含む)をもとにしたA仮説検証型の研究に対するアンチテーゼとして、@ケース研究によるA仮説構築型の研究を持ち上げたのではないかと想像するが、もうとっくにその時代的な使命を果たし終えた論文だと思う。にもかかわらず、四半世紀を経てもなお、安易なケース研究の「言い訳」「後ろ盾」としてこの論文を頻繁に引用する現代の研究者たち。その姿勢に疑問を感じる。
より具体的にわかりやすくポイントを絞って解説してみよう。世の中には、セルズニックのTVAやアリソンのキューバ・ミサイル危機(p.534)のような一つの事例を詳細に記述した有名なケース研究が存在するが、彼女の主張にしたがえば、論文は1つのケースではなく、複数のケースを扱う必要がある。その上で、
- インタビュー(面接調査)だけではなく、定量的なデータも含めて多重のデータ収集方法で三角測量(triangulation)すべし。【ステップ3】
- ケースをカテゴリーで分け、各カテゴリーに複数ケースを用意して、各カテゴリー内の類似やカテゴリー間の相違を調べるべし。
【ステップ5】
- 仮説を導出すべし。【ステップ6】
ということになる。この方法論で書かれた論文は「Eisenhardt (1989)に則って研究した」と書いてもいいが、それ以外のケース研究(たとえば1ケースのみ、あるいは複数ケースを並べただけ、あるいはインタビューにのみ基づいた、「安易」なもの)が、ケース研究だからといって、この論文を「後ろ盾」的に引用するのはおかしいのである。どうも、彼女の言っているケース研究とは、個々のケースがアンケート調査の個票1枚に相当するような存在で、その全体・総体を指してケース研究と呼んでいるらしい。おそらく、ほとんどの人が考えているケース研究とはイメージが異なるはずだ。だから、この論文を引用すると「安易」なケース研究が「言い訳」「後ろ盾」として間違って(あるいは確信犯的に)不適切に引用しているとしか見えないのである。あるいは、この論文をちゃんと読んだことがないか。要するに、「安易」なケース研究が安易に引用してはいけない論文なのである。