Edmondson, A. C. (2019). The fearless organization: Creating psychological safety in the workplace for learning, innovation, and growth. New York, NY: John Wiley & Sons.
★★★
邦訳, エイミー・C・エドモンドソン (2021)『恐れのない組織:「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(野津智子 訳), 英治出版.
多くの管理者は、不安がやる気を引き出す力(the power of fear to motivate)を信じがちである(p.14 邦訳p.38)。しかし、部下は不安にかられると、率直に発言せず、安全地帯にとどまって傍観するようになる(p.6 邦訳p.28)。実際、エドモンドソンが1990年代半ばに、医療ミスの調査に参加した際に、有能なチームほどミスを多く報告していたことを発見した。これはミスの数が多いことを意味しているのではなく、有能なチームには率直に話す風土があると考え、それを心理的安全性(psychological safety)と名付けた(pp.10-11 邦訳pp.33-35)。つまり、心理的安全性とは、メンバーが不安を覚えることなくアイデアを提供し、情報を共有し、ミスを報告する風土のことであり(p.xvi 邦訳p.15)、「みんなが気兼ねなく意見を述べることができて、自分らしくいられる風土」(a climate in which people are comfortable expressing and being themselves)と定義される(p.xvi 邦訳pp.14-15)。
ただし、心理的安全性があればパフォーマンスが高くなるわけではない。心理的安全性は、できることをせずに済ますブレーキ(the brakes that keep people from achieving whta's possible)を取り除くのである(p.21 邦訳p.48)。別の言い方をすれば、心理的安全性はモデレータ変数であり、他の関係を強めたり弱めたりする(p.43 邦訳p.73)。さらに、心理的安全性の対象は限定的でもある。題名にもなっているフィアレスな(fearless; 不安も恐れもない)組織とは、将来への不安(anxiety about the future)のない組織のことではなく、対人関係の不安(interpersonal fear)を最小限に抑えた組織のことである(p.xv 邦訳p.14)。