クーン(Kuhn, 1962)の科学的パラダイム(scientific paradigm)の話を技術に応用した技術的パラダイム(technological paradigm)に関連づけて技術的トラジェクトリ(technological trajectory)を提唱した概念論文である。クーンは、科学的パラダイムを、その中で通常科学(normal science)が見込み(promise)を実現するモデル、パターンとしてとらえているが、この論文では、技術的パラダイムも、自然科学から導かれた選ばれた原理と選ばれた要素技術(material technologies)に基づいて、選ばれた技術的問題を解くモデル、パターンとして定義されている。その上で、技術的トラジェクトリは、技術的パラダイムに乗っかった通常(normal)問題解決活動すなわち進歩(progress)のパターンであると定義している(p.152)。
技術的パラダイムには、強力な排他効果(exclusive effect)があり(p.153)、追求すべき技術的変化と無視すべき技術的変化の方向についての処方箋を体現しているが(p.152)、こうした見通し(outlook)である技術的パラダイムの内での進歩の方向(direction of advance)が、技術的トラジェクトリなのである(p.148)。ただし、ここでいうトラジェクトリは「線」ではなく、多次元空間における円柱(cylinder) ― 2次元平面ならば「帯」(太さ、幅のある線) ― のようなものである(p.154)。技術的トラジェクトリは通常進歩(“normal” progress)であれば連続(continuity)であるが、異常な革新的努力(“extraordinary” innovative effort)やブレークスルー(breakthrough)があったときには不連続(discontinuity)になる(p. 158; p.160)。
Kuhn, Thomas S. (1962; 1970; 1996) The Structure of Scientific Revolutions. Chicago: University of Chicago Press.