Cusumano, M. A., & Kemerer, C. F. (1990). A quantitative analysis of U.S. and Japanese practice and performance in software development. Management Science, 36(11), 1384-1406. ★☆☆【2017年5月1日】

 ソフトウェア開発の日米比較に関する論文。前半で既存研究を整理し、そもそも大方の論者が主張するように、米国が日本に勝っているのかという問題提起をし、後半では、米国11社の24プロジェクト、日本6社16プロジェクトについて調べ、17通りの日米比較をしたもの。その結果は、日米では、そんなに違わなそうだという結論らしい。さらに、3プロジェクト以上が対象に含まれている6社(米国11社中4社、日本6社中2社)の影響が大きそうだとして、6社の内1社ずつ外した17×6=102回の再テストを行うことで、会社の「感度分析」も行っている。

 ただし、この調査で本当に日米比較をしたことになるのかは、大いに疑問である。会社数、プロジェクト数が少ないというだけではない。たとえば、米国プロジェクトの25%、日本プロジェクトの13%がCOBOLを使って開発、メンテナンスをしている(おそらく)事務データ処理用ソフトと、米国プロジェクトの21%、日本プロジェクトの13%がアセンブラを使って開発している(おそらく)OS系ソフト(Tables 4a & 4b)とでは、開発規模も、開発の仕方も全く異なるのではないだろうか。それらを比較することにどんな意味があるのだろう。しかも、設計→プログラミング→試験(デバッグを含む)のサイクルで、米国はエフォートの31%が設計; 36%がプログラミングに向けられているのに対し、日本では39%が設計; 25%がプログラミング(Table 8)だと聞いて、この論文のように日本ではプログラミングよりも設計に重きを置いている……と思う関係者は少ないはずだ。ほとんどの人は日本ではプログラミングを外注しているからではないかと直感するだろう。だとすると、外注先まで追いかけて調べないと、本当のパフォーマンス比較はできないはずなのだが。


Readings BizSciNet

Copyright (C) 2017 Nobuo Takahashi. All rights reserved.