この論文は、face timeの効能を大前提にしている。ここでface timeとは、辞書的にはオフラインで会う対面時間のことだが、この論文では、仕事や職場で顔をみかける時間のことを指している(p.554)。物理的に近くにいれば、対面時間をとれるのだが、物理的に離れていれば、顔を見ることはできないので、その代わりにシグナルを送って(signaling)自分をアピールすることになる、とこの論文では、ざっくり考えている。
この論文では、『フォーチュン』100社に入る大企業である米国ミシガン州デトロイトに本社のある自動車会社オートワークス社(Autowoks)と米国カリフォルニア州シリコンバレーに本社のあるコンピュータ・ネットワーク機器のサンテック社(Sun Tech)の2社(いずれも仮名)の本社(headquarter)要員と支社(subsidiary)要員の合計92人のインタビューを行った。そのインタビュー結果を66にコーディング(open-coding)をした後、30の2次コード(second-order codes)、さらに15のカテゴリー(categories)にまとめ(axial coding)、最終的に、本社要員3、支社要員5の計8個の総合理論次元(aggregate theoretical dimensions)にまとめている(selective coding)。(もっとも、このコーディングの過程は、別添になっているAppendixを見ないとよくわからない。)
その結果、本社要員と対面時間の叶わない支社要員と本社要員との間で、Figure 1 (p.560)にも図示される次の3つのフェーズからなるシグナリング・モデルが、事実発見として提示される。すなわち、本社の良いプロジェクトに参加するには、本社の管理者と対面時間が欠乏していると考えている支社要員は、
なんとも閉塞感漂う結論である。ただ、Table 1 (p.558)を見ると、本社要員は勤続年数10年以上の40代・50代が中心で、支社要員は勤続年数数年の20代・30代が中心なので(勤続年数半年なんていう人も4人いる)、日本で「最近の若者は3年で会社を辞める」と嘆いている状況と似ていないこともない。それに、ものは考えようで、そうはいっても支社要員の1割弱は、犠牲を払ってても、こんなアピール生活を続けて、本社のプロジェクトに参加するんだ(すごいね)と読むこともできる。はっきりいって、米国企業なら、本社・支社間に限らず、本社内でも、それこそ経営者集団内でも、対面時間があろうがなかろうが、手段を選ばず皆アピールしまくっているので、それって文化の問題なのでは、という気もする。そして、昇進できないと数年であきらめて転職するというのも、米国企業では、比較的標準的な姿なので、結局、この論文の結論って、対面時間と無関係なんじゃないの、という気がする。