Cohen, W. M., & Levinthal, D. A.
(1990).
Absorptive capacity:
A new perspective on learning and innovation.
Administrative Science Quarterly, 35(1), 128-152.
★★★【2013年5月22日】
この論文では、企業が新規の外部情報の価値を認識し、それを吸収同化し(assimilate)、商業目的に応用する能力―企業の吸収能力(absorptive capacity)―が企業の技術革新の能力にとって決定的に重要であると主張している。さらに、先行研究は、研究開発投資の副産物として、また製造活動の副産物として、企業の吸収能力が生じることを示唆しているが、この論文は、吸収能力が企業のもっている関連する事前知識のレベルの関数であると主張している。この論文の議論は3段階で構成されている。まず、
- 【第1段階】個人の吸収能力の認知論的基礎が議論される。認知科学・行動科学の分野の研究を引用することで、@事前知識(prior knowledge)が新しい関連する知識の学習を促進していること、Aこの考えは学習スキルにも拡張できて、事前の学習経験は後続の学習に効果があること、B 問題解決スキルにも然りであることを主張している。そして、知識一般(@)用であれ、学習スキル(A)用であれ、問題解決スキル(B)用であれ、効果的な吸収能力を開発するには、個人を関連する事前知識にちょっとさらしたぐらいでは不十分で、強度(intensity)が決定的に重要であると主張する。
しかし、組織の吸収能力は組織の個々のメンバーの吸収能力に依存するが、その単純な総和というわけではない。そこで次に、
- 【第2段階】組織レベルの吸収能力に影響を与える要因が特徴付けられる。組織の吸収能力に影響を与える内的メカニズムとしては、組織外部とのコミュニケーション構造および組織内部でのコミュニケーション構造が関係してくる。言い換えれば、Allen (1977)のゲートキーパーのような集権化したコミュニケーション・スター(技術変化が速くて不確実な場合には効果的ではないかもしれないが)の能力だけではなく、ゲートキーパーが情報を伝える個々人の能力にも依存している。このとき、個人間で知識がオーバーラップしているほど、個人間のコミュニケーションは効果的にはなる。しかし、完全にオーバーラップしてしまえば、個人間の多様性は消滅してしまう。個人間の知識の共有と多様性の間にはトレードオフの関係があるので、知識のオーバーラップが部分的で、それがオーバーラップしていない様々な知識によって補完されているというのが理想的な知識構造である。そのため、たとえば日本では研究開発要員がマーケティングや製造現場にもローテーションで回されることが実践されていると主張されている。
それでは、こうした吸収能力は内的に発達させるべきものなのだろうか、あるいは新しい要員を雇ったり、コンサルタントと契約したり、企業買収したりして単純に買ってこられるものなのだろうか。この論文ではいくつかの先行研究を引用して、吸収能力の決定的に重要な構成要素は、しばしば企業特殊的であり、それ故、買ったりすぐに統合したりはできないものであるとしている。そこで、
- 【第3段階】組織の吸収能力の発達は歴史依存的・経路依存的(history- or path-dependent)であり、特定の専門領域への初期投資が不足すると、その領域の将来の技術的能力の発達を妨げることになる。
より詳しく、この続きは高橋(2007)で。
《参考文献》
【解説】高橋伸夫 (2007)「組織の吸収能力とロックアウト―経営学輪講 Cohen and Levinthal (1990)」『赤門マネジメント・レビュー』6(8), 345-352. PDF