この論文は経営学の論文ではない。
企業の社会的責任(corporate social responsibility; CSR)が話題になるようになって久しい。トムソン・ロイター(Thomson Reuters)のASSET4は、(1)環境パフォーマンス・スコア、(2)社会パフォーマンス・スコア、(3)企業統治スコア、(4)経済パフォーマンス・スコアの4本柱からなるが(p.6)、この論文ではASSET4の4本柱のうち(1)〜(3)の等加重平均値をCSR指数(CSR Index)と定義し(本来ならESG (environment social governance; 環境・社会・ガバナンス)指数と呼ぶべき)、それが経済学分野で資本制約を表す指数として使われているKZ指数(Kaplan and Zingales Index)に影響していると主張している。つまり、CSR指数が大きくなるほどKZ指数は小さくなる(資本制約が弱くなる)傾向があるというのだ。KZ指数は、総資産に対するキャッシュフロー、現金残高の比率が小さいほど(つまり内部資金が少ないほど)、大きな値をとるようになっていて、KZ指数が大きいほど資本制約が強いことになる(p.22)。
とはいえ、これが昔の話ならまだしも、今や、ファンドを運用するブラックロック(BlackRock)がASSET4のデータを使うようになった(p.6)と書いてしまっているほどなのである。実際、ブラックロックに限らず、ESG重視を標榜するファンドが増えたのは事実だろう。ちなみに、日本でも投資信託でおなじみのブラックロックは、2021年末の運用資産残高10兆ドルの世界最大の資産運用会社で、ファンドを通じて主要な上場企業の大株主となっており、S&P500種株価指数を構成する企業の80%以上において、持ち株比率の上位3位までに入っているという。であれば、CSR指数が良かった会社は、ファンドから資金調達しやすかったはずである。しかし、それが会社の経営のパフォーマンスを説明していることにはならない。経営学的にはナンセンスである。
実際には、