イノベーションなどの普及に際して、他者の採用を参考に自分のイノベーションに対する採用を決定するというような事象を社会的伝染(social contagion)という。イノベーションなどの情報の移転を起こしうる二者間の関係については、次の二つが考えられている。
仮に、「直接結合」によってイノベーションの社会的伝染が起こるのであれば、より強い直接結合関係にある二者ほど、互いに影響を与えやすく、社会的伝染が起こりやすいという仮説が立てられる。しかし、仮に、「構造同値」によってイノベーションの社会的伝染が起こるのであれば、保持する社会的関係のパターンの近似が、似たような人々を観察させたり、参照させたりするために、二者間に社会的伝染が起こるという仮説が立てられる。すなわち、
二人の人がいて、一方がイノベーションを採用したとき、それが他方のイノベーションを採用する引き金になる(trigger)ことを期待させるような近接性(proximity)を考えるわけだが、直接結合も構造同値も物理的な近接性を一般化したものである。この二つの仮説のどちらが社会的伝染の本質なのであろうか。この論文では、新しい抗生物質「テトラサイクリン」(tetracycline)の医師の間での普及を分析したMedical Innovation (Coleman, Katz, & Menzel, 1966) の原データを遡って再分析することで、社会的伝染がどのように起こるのかを分析している。この続きは安田, 高橋(2007)で。
【解説】安田雪, 高橋伸夫 (2007)「社会的伝染を説明するのは直接結合か構造同値か―経営学輪講 Burt (1987)」『赤門マネジメント・レビュー』6(8), 335-342. PDF