Burt, R. S. (1987). Social contagion and innovation: Cohesion versus structural equivalence. American Journal of Sociology, 92(6), 1287-1335. ★★★

 イノベーションなどの普及に際して、他者の採用を参考に自分のイノベーションに対する採用を決定するというような事象を社会的伝染(social contagion)という。イノベーションなどの情報の移転を起こしうる二者間の関係については、次の二つが考えられている。

  1. 「直接結合」(cohesion)……直接的に深い繋がりのある人間関係。
  2. 「構造同値」(structural equivalence)……二者の保持している周囲の人間関係、あるいは社会関係が同様である状態。

 仮に、「直接結合」によってイノベーションの社会的伝染が起こるのであれば、より強い直接結合関係にある二者ほど、互いに影響を与えやすく、社会的伝染が起こりやすいという仮説が立てられる。しかし、仮に、「構造同値」によってイノベーションの社会的伝染が起こるのであれば、保持する社会的関係のパターンの近似が、似たような人々を観察させたり、参照させたりするために、二者間に社会的伝染が起こるという仮説が立てられる。すなわち、

  1. 直接結合(cohesion):直接結合モデルはエゴ(ego)と他者(alter)の社会化に焦点をあてる。エゴと他者の間のコミュニケーションが頻繁かつより強いほど、他者の採用はエゴの採用を促進する。他者とイノベーションについて議論することで、エゴは採用のコストや便益に関するある規範的・社会的な理解に到達する。
  2. 構造同値(structural equivalence):構造同値モデルはエゴと他者の間の競争を強調する。たとえば、歳の近い兄弟は親から励まされて同じ科目で良い成績をとろうとするし、同じ教授についていた二人の大学院生は同じような論文を出版しようとする。社会的構造の中でポジションを維持し、医学的なアドバイスや議論をすることで良い内科医のイメージを共有して行動する二人の内科医は、同じように医学の発展を取り入れようとする。エゴと他者はそれ以外の人との関係が似ていればいるほど(構造同値であればあるほど)、エゴの他者に対する競争心はかきたてられ、エゴは魅力的に見える他者が採用したイノベーションをすぐに採用するようになる。

 二人の人がいて、一方がイノベーションを採用したとき、それが他方のイノベーションを採用する引き金になる(trigger)ことを期待させるような近接性(proximity)を考えるわけだが、直接結合も構造同値も物理的な近接性を一般化したものである。この二つの仮説のどちらが社会的伝染の本質なのであろうか。この論文では、新しい抗生物質「テトラサイクリン」(tetracycline)の医師の間での普及を分析したMedical Innovation (Coleman, Katz, & Menzel, 1966) の原データを遡って再分析することで、社会的伝染がどのように起こるのかを分析している。この続きは安田, 高橋(2007)で。


《参考文献》

【解説】安田雪, 高橋伸夫 (2007)「社会的伝染を説明するのは直接結合か構造同値か―経営学輪講 Burt (1987)」『赤門マネジメント・レビュー』6(8), 335-342. PDF


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