学問的には、identification (一体化)とidentity (同一性)は異なる概念である。ところが、この論文の中では、両者を区別なくテキトーに使っており(両者を接合しようとか統合しようとかいう高い志があるのでは、と勝手に誤解すべきではない)、どちらの話をしているのか常に意識して読まないと正確な理解は難しくなるので注意がいる。論文のタイトルは “Social identity theory and the organization” になっているが、正確には前者すなわちidentification (一体化)に関する論文である。タイトルは、この論文がSIT (Social Identity Theory)を基にしていることに由来している。SITは、ランダムだと明示して知らない人同士をグループ分けしても、内集団一体化とえこひいきが起こるという実験結果を出発点にした理論だが、pp.24-26で、SITの研究成果を、組織における社会的一体化(social identification)の@先行要因とA結果に分けて整理している。
社会的一体化の「先行要因」(antecedents)としては、
SITはヨーロッパが中心の社会心理学研究なので、そのSITを米国の経営学、組織論に紹介したという色彩が強い。しかし、この論文を読んでもSITのことはさっぱり理解できないので、SITを理解したいのであれば、翻訳もある Turner (1987)を読んだ方がいい。この論文では判然としないが、SITとは、分かりやすく言えば自己カテゴリー化理論なのである。