これまで国際経営の分野の研究では、R&Dの国際化を数十年前に終えてしまった欧米の多国籍企業が対象だったために、R&Dの国際化のプロセスに焦点をあてた研究が少なかったという。そこで、この論文は、日本の多国籍企業、キヤノン、シャープ、エーザイ、山之内製薬、神戸製鋼所の5社の英国の基礎研究所を対象にして、R&Dの国際化プロセスを調査している。
つまり、この論文を読む際に、まず注意しなければならないのは、この論文ではR&Dとはいっても実際には開発Dではなく、研究Rだけを対象としていて、R&D子会社(R&D subsidiary)とR&D研究所(R&D laboratory)は同じものを指しているということである。当然、論文タイトルにも出てくる「本社・子会社」(headquarters-subsidiary)関係も普通とは異なる。一般的な海外直接投資の議論における生産の現地化とそれに伴う開発部門の現地化の話とは異なる話をしているので注意がいる。
この論文では、R&D子会社は「スターター」→「イノベーター」→「貢献者」という順で役割が進化していくとしている。制度化を行う「スターター」では、実質的なR&D活動はまだ実施されておらず、R&D活動が行われるようになるとイノベーターになり、その成果である知識・技術が他部門に普及するようになると貢献者になる。
次に、現地自律性(degree of local autonomy)と情報結合(information connectivity)の2次元で考えると、論文の本文には明示的に書いていないが、Figure 2から想像するに
という主張が展開され、その半情報結合された自由を達成するための方策が、第5節にまとめられている。ただし、「半情報結合された自由」は本文の解説でも、Figure 2のポジションでも、現地自律性が「半」で、情報結合は「高」なので、「情報結合された半自由」(connected semi-freedom)の間違いではないだろうか?
※この論文の日本語版は浅川(2011)の第3章「海外R&D拠点の役割と進展」に収録されているので、訳語等は浅川(2011)にしたがっている。
浅川和宏 (2011)『グローバルR&Dマネジメント』慶應義塾大学出版会.