個人が雇用者と交渉して得た特別な取り決めのことをidiosyncratic deals略してi-dealsと呼んでいる。そのi-dealsと組織市民行動(organizational citizenship behavior; OCB)は関係があるのかを調べた研究。というときれいに聞こえるが、要するに、ごね得で特別扱いされた奴は組織のために行動するのか? という身も蓋もない交換話。実際、その関係は、リーダーとメンバーの交換(leader-member exchange; LMX)、チーム(同僚)とメンバーの交換(team-member exchange; TMX)、知覚された差組織の支持(perceived organizational support; POS)の質に依存しているのではないかとインドのソフト会社の231組の上司・部下ペアのデータで調べている。しかし、こんなごね得の特別扱い(i-deals)をあたかも経営の手法のように考えて議論している人間の気が知れない。ダメでしょ。組織としての規律が失われている。こういうのを腐っているというのだ。そもそもごね得で特別扱いされているような人間にまともさを求めるのは間違いだし、それ以外の馬鹿を見る正直者は、離反していく。
ただ、この論文で測定されているi-dealsは、本来の定義にあった交渉・ごね得の部分が抜け落ちていて、上司がその部下に対して彼/彼女の「同僚(coworker)と違う」(能力開発関係の)処遇をしているかだけを上司に訊いている(p.976)。これだと「報酬」の一種になってしまうので、OCBに結びついてもおかしくなく、実際、Table 2を見ると正の有意な相関がある。ただし、逆の因果関係、つまりOCBをしているような人間だからこそ、特別な処遇をしている可能性も大いにある。さらにいえば、OCBも上司に訊いているので、上司からすれば、えこひいきしている部下に対しては、彼/彼女こそ組織市民だから……と評価を上方修正することは認知的不協和理論的に不思議ではない。要するに、この論文の結果はRousseauたちが言うi-dealsとは関係がない。