Adner, R., & Levinthal, D. A. (2004). What is not a real option: Considering boundaries for the application of real options to business strategy. Academy of Management Review, 29(1), 74-85. ★☆☆ 【2018年1月17日】


 現在価値法(net present value; NPV)では、現時点で、未来にわたる投資案件を一度に選択することになる。それと比べて、高い不確実性(uncertainty)または高い不可逆性(irreversibility; いつでも売却可能な証券への投資ではなく、いったん投資すると回収が難しくなる実物投資という意味らしい)のときには、投資選択はリアル・オプション(real options)の性格をもつようになる(Figure 2a)。つまり、投資案件に対するコミットメントを遅らせるわけである。

 ただし、それも標的市場(target market)と技術予想(technical agenda)がともに固定的(fixed)な時だけで、どちらかが可変的(flexible)になると、結局は成り行き任せ(path-dependent investment)になるとも主張している(Figure 2b)。これら(Figures 2a and 2b)が、論文の副題にもなっているリアル・オプションの適用可能範囲(boundaries of applicability)というわけだ。ただし、標的市場も技術予想もともに固定的な場合でも、「これから良くなるさ」(Things will get better)と思うと(Figure 4)、放棄の妨げになる。それをこの論文では「オプションの罠」(option traps)と呼んでいる。つまり、本来いつでも放棄可能なオプション(option; 選択の自由、選択権)のはずだったのに、現実には、なかなか放棄できない(捨てられない)でしょうというわけだ。

 とはいえ、組織論(なのか?)から見た、リアル・オプションの適用可能範囲の提案で留めておけばよかったのかもしれないが、オプションの罠まで持ち出してしまうと、ちゃぶ台をひっくり返したような全否定の話になってしまう。Figure 4では、簡素化して表1に示すように、他の3つのセルでも(Figure 2bとの整合性に疑問が残るが)「どこかほかでできるさ」(We can try it somewhere else)、「もっと頑張れるさ」(We can try harder)、「できるさ」(We can make this work)といったオプションの罠まで考えているので、なおさら「結局捨てられない」=「オプションなんて無意味」に見えてくる。かくして、リアル・オプションの信奉者たちから批判されて、(炎上商法ではあるまいが)同じ巻に反論(reply)論文まで書かせてもらっているが(反論になっているのか?)、結局、落としどころがよくわからない論文に終わっている。一体何がいいたかった?

表1. 機会の放棄を妨げる「オプションの罠」
技術予想
(technical agenda)
標的市場 (target market)
固定的 (fixed)可変的 (flexible)
固定的
(fixed)
「これから良くなるさ」
(Things will get better)
「どこかほかでできるさ」
(We can try it somewhere else)
可変的
(flexible)
「もっと頑張れるさ」
(We can try harder)
「できるさ」
(We can make this work)
(出所)Figure 4 (p.80)を簡素化したもの。


《参考文献》

Adner, R., & Levinthal, D. A. (2004). Reply: Real options and real tradeoffs. Academy of Management Review, 29(1), 120-126.


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