ファッション業界のデザイナー(designer)、メーカー(manufacturer)、小売業者(retailer)の三つ組(triad) 31組の企業46社(デザイナー10、メーカー11、小売業者14)(p.409)を63の対面インタビューと文書データで調べた結果、次の5つの産業アーキテクチャ(industry architecture; IA)に分類できたという。
こうすると、(1)コストと開発スピードの効率(efficiency)、(2)ファッション革新性(innovativeness)、(3)プッシュかプルかの革新の動因、の三つがアーキテクチャの決定要因(determinant)として見えてきたという。これを効率と革新性の2軸に整理すると、高効率で高革新性のIAや低効率で低革新性のIAは存在しないので、効率と革新性の間にはトレードオフの関係があると結論する。
ただし、Figures 3-5で、効率と革新性の2軸でIAをポジショニングしているのだが、その導出は強引である。Table 4に「証拠」(evidence)とともに、31の三つ組の特徴づけが示されているが、各組には、そもそも効率か革新性かどちらかの記述しかなく、これでは2軸でポジショニングができない。そのせいか、それをTable 5で無理やり各IAで効率と革新性の記述にまとめてしまい、31の三つ組ではなく5つのIAをポジショニングしている。しかし、こんな杜撰なやり方では、高効率かつ高革新性の三つ組が存在する可能性を全然排除できていない。というか、普通に存在するだろう。実際、われわれに身近なユニクロなどは、IA3に該当するのだろうが、高効率というだけではなく、素材(fabric)(p.413)なども考えると十分に高革新性であろう。ところで、こうしたごまかしをせずに、各IAを直接ポジショニングすることはできるのだろうか。実は、五つのIAのうち、IA3についてのみ、IA1ほど革新的でなく、IA2より製品コストが高いという記述(pp.412-413)がある。しかし、それすら後者はFigure 5と矛盾している。多分、各IAを直接ポジショニングすることは難しかったのだろう。その努力は放棄されているようだ。