高橋(2016) から一部抜粋すると……
サイモンは単純に「意思決定=問題解決」と考えていました。しかも多くの選択肢の中から一つを選ぶ択一問題の問題解決です。フォン・ノイマン=モルゲンシュテルンの『ゲーム理論と経済行動』(1944年)の強い影響を受けているから仕方ありません。それに対してマーチたちは、コンピュータ・シミュレーションをする際に、問題解決以外にも意思決定のタイプはあるはずと考えました。見過ごしとやり過ごしです。たとえば、恋人同士が長々と付き合っていると問題が色々と出てくるものです。それを全部解決しないと結婚できない……となるともう結婚は無理。結婚には勢いが必要なのです。問題が出てくる前に決めてしまわないと(私の体験)。これが見過ごしによる決定です。他方、今、抱えている問題が大き過ぎると、そもそも合理性に限界があるので解決できません。しかし問題をやり過ごしていれば、そのうちその問題の方が立ち消えになるかも。嵐が過ぎ去るのを待つ。これがやり過ごしです。拙著『できる社員は「やり過ごす」』(1996年)でも、多くの人がやり過ごしを経験している調査結果が示されます。現実の組織では、大問題をやり過ごしてでも、日常の業務を回す必要があります。優先順位の低い問題を上手にやり過ごすことを求める会社まであるのです。
コーエン=マーチ=オルセン (Cohen, March, & Olsen, 1972) のゴミ箱モデルは、より正確には、次のような四つの基本的な概念の再検討に基づいて、コンピュータ・シミュレーション・モデルとして定式化されている。
これら四つの要素は、互いに比較的独立して、かつ外生的に組織というシステムに対して、流れ込むように設定されている。そして、選択機会が決定に至る条件については、次の仮定がおかれる。
エネルギー加法性の仮定:選択機会が決定に至るためには、各選択機会は、それに投入されている問題のエネルギー必要量の総計と同量の効果的エネルギーを必要とする。つまり、ある時点で、一つの選択機会に属している効果的エネルギーの総量が、エネルギー必要量の総量と等しいかまたはそれを超えると決定がなされる。
この続きは高橋(2015)で。ちなみに、ほとんどの研究者がそのアルゴリズムを理解していないが、Cohen, March, & Olsen (1972) の論文の付録としてFortranで書かれたコンピュータ・シミュレーションのプログラムが付いている。しかし、Inamizu (2015) も指摘しているように、オリジナルのプログラムには問題点も多く、追試には適さない。そこで世界中の研究者が自分でゴミ箱モデルのプログラムを書いていて、それを収集している海外のサイトもある。
そのリストにも挙げられているが、多分、一番短いゴミ箱モデルのシミュレーション・プログラムが「やり過ごし」研究の英文論文 Takahashi (1997) に掲載されているBASICで書かれたプログラムである。