J. G. MarchとH. A. Simonの書いたOrganizationsという本がある。出版されたのは1958年、私の生まれた翌年である。近代組織論の金字塔的業績であり、いまや組織論の古典であるが、翻訳が出たのは原著出版後20年もたった1977年、私が大学の学部学生の頃であった。そのときは評判を聞いて一読してはみたものの、たいして印象も残らなかった。しかし、大学院に入り、多少なりとも勉強をしてから読み直してみて、そのバックグラウンドの広さにようやく気がついて唖然とした。統計的決定理論、ゲーム理論、経済学、心理学、行政学、社会学、そしてもちろん経営学の分野で、その後咲き乱れることになる大輪の花々の種子が組織論という鞘の中に埋め込まれている。そんな感じの本である。特に統計的決定理論との連続性には新鮮な驚きがあった。近代組織論は決定理論の理解なくしては語れない。この本との再会を果たして、私は自分の専門分野を決めた。そして、本来の守備範囲である経営学の分野で、近代組織論ではいわばかくし味的存在であった統計的決定理論を前面に打ち出した組織研究をするようになった私は、後になって、大学院時代に統計的決定理論のまともな授業、演習に参加する機会に恵まれたこと自体、とてつもなく幸運なことであったことを知らされた。こんな幸運にめぐり合うことができたという感謝の気持ちが、本書執筆の根底にある。私の感じた新鮮な驚きをどれだけ伝えることができるだろうか。統計的決定理論と近代組織論の連続性、さらにはコンティンジェンシー理論、組織活性化(組織開発)、ゴミ箱モデル、そして動機づけ理論への展開を一つの流れとしてはっきり見えるようにできるだろうか。とにかく、一見かなり距離のあるこれらの領域を決定理論を基軸に1冊の著書にまとめる作業に着手したわけである。
【第I部 決定理論の基礎】
【第II部 組織論での展開】
【第III部 決定理論の限界と人間】