Zahra, S. A., & George, G. (2002). Absorptive capacity: A review, reconceptualization, and extension. Academy of Management Review, 27(2), 185-203. ★★☆ 【2017年12月6日】


 組織の「吸収能力」に触れる論文は、Cohen and Levinthal (1990)とともに、この論文をよく引用するようなので★★☆にしてあるが、内容的には疑問だらけである。引用する人は、注意して引用した方がいい。

 Cohen and Levinthal (1990)は、企業が新規の外部情報の価値を認識し、それを吸収同化し(assimilate)、商業目的に応用する能力のことを企業の吸収能力(absorptive capacity)と呼んだ。この論文は、その結論にも書いてあるように、Cohen and Levinthal (1990)が吸収能力(この論文ではACAP: absorption capacityと呼んでいる)の概念を経営学に持ち込んでから約10年の研究の整理をしている。それによると、まず吸収能力の四つの次元: 獲得(acquisition)、同化(assimilation)、変換(transformation)、深耕(exploitation)を特定できるそうだ。それを論者ごとに整理したのが表1である(Cohen and Levinthal (1990)は、なぜか同化に○がついていない)。

表1. 吸収能力の次元
論者(出版年順)次元
獲得同化変換深耕
Koestler (1966)    
Cohen & Levinthal (1990)   
Lyles & Schwenk (1992)    
Dodgson (1993)   
Boynton, Zmud, & Jacobs (1994)    
Keller (1996)    
Mowery, Oxley, & Silvermank (1996)    
Szulanski (1996)   
Veugelers (1997)    
Kim (1997)    
Kim (1998)
Lane & Lubatkin (1998)   
Fichman & Kemerer (1999)   
Van den Bosch, Volberda, & de Boer (1999)    
Van Wijk, Van den Bosch, & Volberda (2001)  
Smith & Di Gregorio (2002)*    
* 論文では "Smith & DeGregorio (in press)" になっていたが、2002年に出版され、第2著者の名前は間違っていた。
(出所) Zahra & George (2002) p.189のTable 3を分かりやすく整理したもの。

 この段階で既に、論者によって、吸収能力と呼んでいるものがバラバラであることが明らかで、なおかつ、「吸収能力」概念の嚆矢であるCohen and Levinthal (1990)とは違うものを勝手に「吸収能力」と呼んでいる論者ばかり(次元が一致しているのはVan Wijk, Van den Bosch, & Volberda (2001)のみ)であることが明白になる。多分、このことがこの論文の最大の貢献だと思われる。

 しかし、それで話は終わらない。この論文は、そんな混沌状態は気にも止めず、吸収能力の四つの次元のうち、獲得(acquisition)、同化(assimilation)を「潜在的吸収能力(PACAP: potential ACAP)」、変換(transformation)、深耕(exploitation)を「実現化吸収能力(RACAP: realized ACAP)」と二つに分ける。Cohen and Levinthal (1990)らが属する組織学習論を理解していれば、深耕(exploitation)は潜在的吸収能力の方なのではないかと疑問に思うが、それも気にならないようで、さらに、なぜか潜在的吸収能力と実現化吸収能力の差が問題だとして、

効率係数(efficiency factor)=実現化吸収能力(RACAP)/潜在的吸収能力(PACAP)

と呼んで(最大値は1らしい)、社会的統合メカニズムが、効率係数を高めると主張する(Proposition 4)。その理由も判然としないが、そもそも潜在的吸収能力が高いほど、効率係数は落ちることになるのだが、それで本当にいいのだろうか? なぜなら、その後に、実現化吸収能力(RACAPが高いと競争優位を得られる(Proposition 5)と主張するだけにとどまらず、潜在的吸収能力が高いと競争優位が保てる(Proposition 6)とまで主張してしまうからである。これでは、効率係数が高いのが良いのか、低いのが良いのかすらも分からない。


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