Teece, D. J. (1986). Profiting from technological innovation: Implications for integration, collaboration, licensing and public policy. Research Policy, 15(6), 285-305. ★★★

 論文の要約冒頭にも明言しているように、この論文は、革新的な企業(innovating firm)がイノベーションから経済的成果を上げることにしばしば失敗する―顧客・模倣企業・産業の他の参加企業は利益を得ているのに―のはなぜかを説明しようとしている。論文の趣旨は明快である。革新的企業がイノベーションを起こした時、その経済的成果を特許制度のような専有体制(regimes of appropriability)だけで守ることは難しい。イノベーションが商業的に成功するには、マーケティングや競争力のある製造(competitive manufacturing)、そしてアフターサービス(after-sales support)といったサービスが必要であり、これらのサービスは、特殊な補完資産(complementary assets)によってもたらされる(p.288)。ところが、模倣者・競争者が優位な場合には、この特殊な補完資産を内部化(integrate)しなくてはならず(p.296, Fig. 10)、ここで多くのイノベーターがつまずいて失敗するというのである。たとえば1960年代にCTスキャナ(CAT scanner; computerized axial tomography scanner; コンピュータX線体軸断層撮影装置)を開発した英国EMI (Electrical Musical Industries)社がそのいい例で、開発者は1979年にノーベル賞までもらったが、同年、EMIはCTスキャナの事業から撤退してしまった。

 なお、この論文で使われている補完資産をいわゆる補完財と混同してはならない。論文中では “complementary assets and/or capabilities” (p.296)という表現まで使われており、補完資産は、RBV (resource-based view)における資源に近いイメージである。つまりRBV的にいえば、この特殊な補完資産こそがレントの源泉なのであり、イノベーションだけではレントの確保は難しいと主張していることになる。その意味では、同時代のRBVと同じ問題意識、主張の論文といえる。

 ただし、Abernathy and Utterback (1978)を引用して、A-Uモデル(この論文ではAbernathy-Utterback framework)らしき図 Fig. 4 も描かれているが(p.289)、明らかにAbernathy and Utterback (1978)やAbernathy (1978)とは図が異なるので注意がいる。おそらく、内容をよく理解しないままに引用しているのではないだろうか。製品イノベーションのピーク時にドミナント・デザインが登場するという間違った設定は、その証拠に思える。


《参考文献》

Abernathy, W. J. (1978). The productivity dilemma: Roadblock to innovation in the automobile industry. Baltimore, MD: Johns Hopkins University Press.

Abernathy, W. J., & Utterback, J. M. (1978). Patterns of industrial innovation. Technology Review, 80(7), 40-47. ★★★


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