Prahalad, C. K., & Bettis, R. A. (1986). The dominant logic: A new linkage between diversity and performance. Strategic Management Journal, 7(6), 485-501. ★★★ 【2012年5月16日】【2017年6月21日】

 この論文は、多角化のパターン(the pattern of diversification)と財務的パフォーマンス(financial performance)の関係を調べたRumelt (1974)を強く意識して書かれた論文である。この論文は、次のような概念的な枠組みを提唱している(pp.489-491):

  1. 会社のトップ・マネジメントは、顔のない抽象的存在(faceless abstraction)ではなく、鍵となる個人の集まり(collection of key individuals)、すなわち、ドミナントな結託(dominant coalition)である。
  2. トップ・マネジメントのプロセスの複雑性は、戦略的多様性(strategic variety)の関数であって、事業の数とか規模だけで決まるものではない。
  3. 戦略的に似た事業は、単一の(single)ドミナント・ロジック(dominant general management logicあるいは短くdominant logic)を使って経営することができる。
  4. トップ・マネジメントの集団が多角化企業を経営する能力(ability)は、ドミナント・ロジックによって制限されている(limited by)。

 ここで言っているドミナント・ロジックとは、「思考態度(mind set)、世界観(world view)、あるいは、目標を達成し、事業で意思決定を行うための事業と管理ツールの概念化(conceptualization)」であり、「ドミナントな結託の中で共有された認知マップ(a shared cognitive map)あるいはスキーマの集合(set of schemas)として貯蔵されている(stored)」もので、「学習された問題解決行動として表される」(p.491)。

 重要なことは、トップ・マネジメントの経営能力は共有しているドミナント・ロジックによって制約されているということであり、そのドミナント・ロジックが使える範囲を超えて戦略的類似性の低い事業に手を出すと、速く的確に反応できなくなって(p.497, Figure 3)、パフォーマンスが低下する。そこで、一つのドミナント・ロジックでうまく経営できる範囲を「一事業」と考えようということなのである。これはRumelt (1974)の事業概念を精緻化したものだといえる。これが、この論文の最大の貢献であろう。

 ところが、この論文は、後半で、ドミナント・ロジックが複数ある場合だとか変える場合だとかへ議論が展開していく。これは明らかにオーバーランである。それゆえ、この論文以降、ドミナント・ロジックは一人歩きを始め、そのおかげで、掲載誌SMJの最初のベスト論文賞を1993年に受賞するのだが(Zajak, 1995)、この 1〜4 以上の深読みは禁物である。多少なりとも深く考える読者であれば、そもそも複数のドミナント・ロジックが存在したり、ドミナント・ロジックを変えて適用した段階で、ドミナント・ロジックの概念が自己矛盾を起こすことはすぐに分かる。つまり、この論文の後半の議論は論理的に破綻している。


《参考文献》

Bettis, R. A., & Prahalad, C. K. (1995). The dominant logic: Retrospective and extension. Strategic Management Journal, 16(1), 5-14.

Rumelt, R. P. (1974). Strategy, Structure, and Economic Performance. Boston, MA: Harvard Business School Press. (鳥羽欽一郎他訳『多角化戦略と経済成果』東洋経済新報社, 1977)

Zajac, E. J. (1995). SMJ 1993 best paper award to Prahalad and Bettis. Strategic Management Journal, 16(1), 3-4.


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