Eisenhardt, K. M., & Tabrizi, B. N. (1995). Accelerating adaptive processes: Product innovation in the global computer industry. Administrative Science Quarterly, 40(1), 84-110. ★☆☆ 【2015年11月25日】

 この論文は、製品開発を早くするための二つの戦略、圧縮戦略(compression strategy)と経験戦略(experiential strategy)を対比して、欧米亜のコンピュータ会社の72の製品開発プロジェクトのデータで検証している・・・ことになっている(p.84)。常識的に考えると、圧縮戦略をとる会社と経験戦略をとる会社の製品開発プロジェクトを比較している論文だと想像してしまうが、実はそうではない。10個の経営ツールを説明変数にして、重回帰分析しているだけである。そのうち6個が圧縮戦略、4個を経験戦略と分類している。つまり、一つの会社あるいは一つの研究開発プロジェクトが、両方の戦略を同時にとっているというわけで、二つの戦略が排反でもなければ、対立するものでもない扱いになっている。その上で、開発期間を被説明変数とすると、経験戦略が効果があり、圧縮戦略はメインフレームやミニコンの分野で効果があると結論している(p.84)。果たしてそうだろうか。

  1. 表3 (p.101)のモデル4を見る限り、5%水準で切ると、経験戦略で有意なのは里程標だけである。圧縮戦略でも多機能チームが1%水準で有意なので、どっちもどっちである。10%水準で有意の印をつけることで結論を誘導している。
  2. 被説明変数の開発期間(development time)は、各プロジェクトの開始日(初回会合の日)から終了日(変更がなくなって安定した日)までの期間を(p.98)、各産業セグメントの平均開発期間を引いて割ったものである(p.100, p.101表2)。ただし、産業セグメントの違いよりも、プロジェクト規模による違いの方を気にすべきではないだろうか。36社のそれぞれで中規模開発プロジェクト(medium-sized development project)と主要開発プロジェクト(major development project)の各1を調べているが(p.95)、本来、両者の開発期間は違うのではないかという疑問がある。事実、表3〜5 (pp.101-104)では、どのモデルでもプロジェクト規模は1%水準で有意である。
  3. 「メインフレームとミニコン」24プロジェクトと「パソコンと周辺機器」48プロジェクトで分けて分析している表4 (p.103)では圧縮戦略のみ、表5 (p.104)では経験戦略のみしか分析していないので、表3 (p.101)のように、両方を入れた分析をしないと、圧縮戦略が「メインフレームとミニコン」の分野で効果があると結論できないのではないか。

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