Barnes, R. M. (1937; 1940; 1949; 1958). Motion and time study. New York, NY: John Wiley & Sons.
1937年版の邦訳, バーンズ (1943)『作業動作研究: 作業に於ける動作と時間』(太城藤吉 譯).東洋書館.
1958年版の邦訳, ラルフ・M・バーンズ (1960)『動作・時間研究(第4版)』(大坪檀 訳). 日刊工業新聞社.
【解説】
科学的管理法の代表的文献の一つ。動作節約(motion economy)は、主にギルブレス夫妻の研究に由来するが(March & Simon, 1993, p.39 邦訳p.26)、マーチ=サイモンは、その典型として、バーンズの『動作・時間研究』の第3版(Barnes, 1949)から動作節約の22原則を説明抜きで列挙している(March & Simon, 1993, pp.39-40 邦訳pp.26-28)。しかし、バーンズの解説を読まないと理解できないことも多いので、ここでは、適宜【 】 内に説明を加えながら22原則を紹介してみよう。バーンズは、動作節約の22原則を、
- 人体の使用に関する原則(ch.15)
- 作業場の整備に関する原則(ch.16)
- 工具および設備の設計に関する原則(ch.17)
の3グループに分類している(pp.192-312)。マーチ=サイモンの原典(初版pp.20-21; 第2版pp.39-40)では、a、b、cの3グループに分類されると明言しておきながら、なぜか22原則を3分類することは忘れられているので、ここではバーンズの記述に従い、3分類の小見出しを付けている。引用されている第3版(1949年)の総ページ数はxii+559pp.と、初版(1937年) ix+285pp.の約2倍になっているが、3分類22原則は、既に初版からあった。
(a)人体の使用に関する原則
- 両手の動作は同時に始め、また同時に終わるべきである。
- 休憩時間以外は、同時に両手を遊ばせてはいけない。
- 両腕の動作は、反対の方向に、対称かつ同時に行うべきである。
- 手の動作は、仕事を満足になしうる最低次の分類に限られるべきである。【手の動作は、1.指の運動、2.指および手首の運動、3.指、手首、および前腕の運動、4.指、手首、前腕および上腕の運動、5.指、手首、前腕、上腕および肩の運動、の五つに分類され、番号が小さい方が低次の分類とされている。従って、ここでいう「最低次の分類」とは、1.指の運動のことを指していることになる。バーンズは、より低次の方が、時間と労力をより要しない、したがって疲労もより少ないとしている(Barnes, 1949, p. 216 初版邦訳p.108)。】
- できるだけ運動量を利用すべきである、ただし、筋力によって運動量を制御しなければならないときは、運動量は最小限にすべきである。【物理学の教科書通りに、運動量(momentum)=質量×速度 のこと。運動量を利用するというのは、ギルブレスが「レンガを勢いづけて壁にのせるとその力で漆喰の付きが良い」と言っているようなことを指している(Barnes, 1949, pp. 218-219 初版邦訳p.111)。】
- ジグザグ動作や突然で鋭角的な方向転換を含む直線動作よりも、円滑で連続的な手の動作の方が好ましい。
- 弾道状の運動は、制限された運動(固定)や「制御された」運動より、速く容易で正確である。
- 円滑で自動的な動作をするには、リズムは不可欠であり、作業はできるだけ楽で自然なリズムをもつようにすべきである。
(b)作業場の整備に関する原則
- 工具と材料はすべて定位置あるいは固定位置に用意すべきである。
- 工具、材料、コントローラーは、オペレーターの近く、すぐ目の前に置くべきである。
- 重力送り容器を用い、材料を組立位置近くに供給すべきである。
- 「落下式送り出し」をできるだけ使用すべきである。【「落下式送り出し」とは、たとえば、小さな金属板に穴をあける足踏み式ドリルで、ドリルの両脇に穴があいていて、材料を取付具に置いてドリルをそこに下げて穴をあけ、ドリルを上げると、穴あけの済んだ金属板が外れて、重力によって、ドリル両脇の穴から下へ、シュートの口まで落ちるというようなもの(Barnes, 1949, pp. 251-252 初版邦訳pp.129-130)。】
- 材料や工具は、動作が最良の順序でできるように配置すべきである。
- 適切な視覚条件を備えるべきである。良い照明は満足な視覚の第一要件である。
- 立ったり座ったりができるだけ楽なように、作業台、椅子の高さを好みに応じて調節すべきである。
- 作業者が良い姿勢を保てる型と高さの椅子を各作業者に供与すべきである。
(c)工具および設備の設計に関する原則
- 治具、取付具、足操作の装置を用いた方が一層便利になされうる仕事からは、手を解放すべきである。【治具(じぐ; jig)は意訳と音訳を兼ねており、工作物を固定して、きりなどの切削工具を工作物に正しく当て、正確・迅速に加工するために用いる道具のこと。】
- 二つ以上の工具は、できるだけ組み合わせるべきである。【たとえば、一つの工具で両端を使うようにした釘抜き付き金槌、消しゴム付き鉛筆など(Barnes, 1949, p. 293 初版邦訳p.162)。】
- 工具と材料は、できるだけ前もって定置すべきである。
- タイプライターを打つときのように、それぞれの指が特定の動きをする場合、それぞれの指の固有能力に応じた負荷にすべきである。
- クランクや大型ネジ回しに使われるようなハンドルは、できるだけ広く手のひらに接するように、設計されるべきである。
- レバー、十字のクロスバー、輪状のハンドホイールは、姿勢を変えずに、最大の機械効率を得られる位置に置くべきである。