Ashforth, B. E., & Mael, F. (1989). Social identity theory and the organization. Academy of Management Review, 14(1), 20-39. ★★★ 【2014年7月9日】【2016年6月8日】

 学問的には、identification (一体化)とidentity (同一性)は異なる概念である。ところが、この論文の中では、両者を区別なくテキトーに使っており(両者を接合しようとか統合しようとかいう高い志があるのでは、と勝手に誤解すべきではない)、どちらの話をしているのか常に意識して読まないと正確な理解は難しくなるので注意がいる。論文のタイトルは “Social identity theory and the organization” になっているが、正確には前者すなわちidentification (一体化)に関する論文である。タイトルは、この論文がSIT (Social Identity Theory)を基にしていることに由来している。SITは、ランダムだと明示して知らない人同士をグループ分けしても、内集団一体化とえこひいきが起こるという実験結果を出発点にした理論だが、pp.24-26で、SITの研究成果を、組織における社会的一体化(social identification)の@先行要因とA結果に分けて整理している。

社会的一体化の「先行要因」(antecedents)としては、

  1. 集団の価値・慣習の独自性
  2. 集団の名声
  3. 外集団の顕現性
社会的一体化の「結果」(consequences)としては、
  1. 個人は自分のアイデンティティと一致する活動を選ぶ傾向がある。
  2. 社会的一体化は集団内の凝集性、協働、利他主義等に影響を及ぼす。
  3. 社会的一体化はその先行要因を強化する。
が挙げられている。その上で、こうしたSITの研究成果を使って、SIT以外の
  1. 組織的社会化
  2. 役割葛藤
  3. 集団間関係
の研究の説明を試みている。

 SITはヨーロッパが中心の社会心理学研究なので、そのSITを米国の経営学、組織論に紹介したという色彩が強い。しかし、この論文を読んでもSITのことはさっぱり理解できないので、SITを理解したいのであれば、翻訳もある Turner (1987)を読んだ方がいい。この論文では判然としないが、SITとは、分かりやすく言えば自己カテゴリー化理論なのである。


《参考文献》

Turner, J. C. (Ed.) (1987). Rediscovering the social group: A self-categorization theory. Oxford, UK: Basil Blackwell. (蘭千壽, 磯崎三喜年, 内藤哲雄, 遠藤由美訳『社会集団の再発見: 自己カテゴリー化理論』誠信書房, 1995)

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